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天使は神様の使いです。
天使は神様に言われて死んだ人の魂を天国へと導きます。
天使は、その仕事がとても嫌でした。
病気で死んだ人、事故で死んだ人……
まだまだ生きたかった人を連れていかなければなりません。
ある晴れた日、男の子が車に轢かれて死んでしまいました。
神様から魂を連れてくるように言われた一人の天使は、神様の言いつけを破り、男の子の魂を迎えにいきませんでした。
いつも言われるのです。
「まだ家族と一緒にいたい」
「まだ生きていたい」と。
天使はいつも、そんな人達をなだめて慰めて、ときには強引に天へと登りました。
(こんな悲しい仕事は嫌だ)
(こんな辛い仕事は嫌だ)
それでも天使は死んでしまった男の子のことが気になって、空からずっと様子を見ていました。
男の子は、お父さんに必死に言いました。
「ねえ、お父さん、僕はここにいるよ」
男の子は、お母さんにまとわりついて言いました。
「ねえ、気づいてよ、僕はここにいるよ」
男の子はとうとう泣き出しました。
でも、お父さんにも、お母さんにも、男の子の声は届きません。姿も見えません。
「お父さん! お母さん!」
いつまでも泣きながら両親の周りを行ったり来たりしている男の子。
空で見ていた天使は、見かねて男の子に近付き言いました。
「こんにちは。君を迎えにきたよ」
「誰?」
「私は天使。残念だけれど、君は車に轢かれて死んでしまったんだよ。」
「死ぬってなに?」
「君の身体から魂が離れて身体がなくなることだよ。魂は人には見えないから、お父さんとお母さんには君のことは見えないんだ」
男の子は驚いて天使に尋ねました。
「もう、お父さんにも、お母さんにも、僕のことは見えないの? 僕の声は聞こえないの? 嫌だよ。ずっとお父さんとお母さんのそばにいたいよ」
泣きじゃくる男の子に、天使は涙をこらえて優しく言いました。
「少しの間、お父さんやお母さんとは会えないけど、君はこれから天国に行くんだよ。お花がいっぱいあって、とても綺麗なところだよ。そこで待っていれば、いつかお父さんにも、お母さんにも会えるよ」
男の子はまだぐすぐすと泣いていましたが
「天国に行けば、いつかお父さんとお母さんに会えるの?」と、天使に訊きます。
「そうだよ。天国ではあっという間に時間が過ぎてしまうから、お父さんにもお母さんにもすぐに会えるよ。その時まで待っていようね」
「それまで一緒にいてくれる?」
「ええ、もちろん」
「じゃあ、一緒に行くよ」
男の子は鼻をすすりながら、少しだけ笑顔で言いました。
「さあ、行こう。空を飛ぶよ! それ!」
そう言って天使は男の子を連れて空に舞い上がりました。
天国へ向かう途中、天使は思いました。
(一度は逃げてしまったけど、これが私の仕事。私がやらなければならないこと。どんなに悲しくても、どんなに辛くても……魂が迷わないように導くのが私の仕事なんだ。)
男の子を抱きかかえ、天使は空へ空へと登っていきます。
自分の家がどんどん小さくなって、とうとう見えなくなって、それでも大好きなお父さんとお母さんがいる家のほうをじっと見ている男の子。
そんな男の子をぎゅっと抱きしめながら、もう決して逃げたりしないと誓った天使の目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちました。
男の子のお葬式の日、ポツポツと雨が降りました。
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