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思いがけない言葉
久遠雅哉は、優れたアルファだ。
久遠グループの総帥だった父を突然に亡くし、三十歳前にしてグループの頂点に立った。
当然のように、若すぎる後継者への不信と不安から、雅哉の立ち位置は脆いもので、気を抜けば崩れ落ちそうだった。
しかし、一歩間違えば瓦解しかねなかった混乱の真っ只中で、雅哉は残された兄弟や信頼できる親族と手を取り合い、父親の死後の数年間を守り抜いたのだ。
土台を固めた雅哉は、少しずつ手を広げ、新しい可能性に挑み始めた。
無謀はせず、けれど停滞することもなく。
誠実な姿勢で仕事に臨み、聡明な眼差しは常にいくつも先の未来を見据える。
確実に進歩を続ける若き獅子を讃えるものは多かった。
そして雅哉は、己を慕い、もしくは信じて集った人々を、決して疎かにはしなかった。
彼らの心を掌握して、久遠グループをますます拡大させていったのだ。
今や飛ぶ鳥を落とす勢いの久遠グループで、堂々と頂点に君臨する雅哉は、四十代半ばの男盛り。
ひとたび人前に出れば熱い羨望の眼差しを集め、パーティーに出席すれば寵を得んと望む若く美しい者たちが彼を取り囲む。
久遠雅哉は、紛うことなき成功者である。
少なくとも、社会的には。
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