大雨と、出逢い2

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大雨と、出逢い2

 雨音。ニュース原稿を読む声。 意識が戻ると、私は車の中で寝ていた。 チェアーが倒され、体の上にタオルが乗っていた。 「具合はどうですか」 運転席の彼がこちらを見ずに問いかけた。 「いや……はい、大丈夫です」 「本当に? 」  霧島は振り向いた。その顔は曇っていた。 「震え、収まりませんね。顔色も悪いし。本当に貧血だけですか」 目は、心底心配だと言っていた。 「ちょっと、低気圧が苦手で。でも、大丈夫です。ありがとうございました」 少しのめまいに耐えながらドアのレバーに手をかける。 「低気圧が苦手なら」 「今日は良くなりませんね」 突然響いたその声に体が固まる。 「送ります。 住所どこですか」 「あの、いや、」 「送らせてください」 問答無用。彼が少し強引な男であることを、その日初めて知る。  それからというもの、調子が悪い日に限って彼と居合わせるようになった 「送らせてください」 その言葉に甘えている自分もいた。 いつもマンションの前で車から降ろしてもらっていたが、今日は本当にダメだった。 「部屋まで送ります」 「いい」 「でも……」 「大丈夫だから」 なんとか起き上がり、ドアを開ける。そして、一歩踏み出した先で、何もないところで つまずいて転んだ。 膝をついた私に豪雨が降り注ぐ。涙が出てきた。冷たい雨。頭痛。無様な自分。 「先輩っ」 慌ててフロント座席から降りてきた後輩に、 抱きしめられた。 スーツの湿ったにおい。 彼の体もどちらかというと冷たかった。 でも、涙はとめどなく溢れ、拭っても拭っても止まらない。 傘もささず、彼に抱きしめられ、二人一緒にずぶぬれになった。 本当に馬鹿だと思う。 「入って」 「すみません」 部屋に人をあげることなんてほとんどなかった。 それにここ数日の不安定な天候で部屋も荒れていた。 無言でバスタオルを投げてよこす。できればはやく帰ってほしい。 「膝、けがしませんでしたか」 心臓がぎゅっとした。ずっと目を背けていた膝の痛み。血が出ているのは確実だった。 「大丈夫だってば。それより、あんたこそ早く体拭きなよ」 脱衣所でスーツを脱いで膝を見るとやっぱり血が出ていた。 風呂場で膝を洗いタオルをあてる。 脱衣所を出ると霧島が所在なさげに突っ立っていた。 「先輩、はやく寝てくださいね」 「俺は、帰るんで」 居心地悪そうな顔をした後輩はいそいそと帰り支度を始めた。 「待って。 本当に助かった。だから、風呂使っていいし、ドライヤーも使っていいから。 そのままじゃ風邪ひくから…。」  霧島は振り返って微笑んだ。 「俺、ちょっとやそっとじゃ風邪ひかないんで。先輩こそ、風邪に気をつけてください」 後輩は部屋を出ていった。 張りつめていた緊張が解け、また頭痛と吐き気が襲う。 帰らないでと、言えばよかった。
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