約束

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その後すぐ、浜野は船を用意してくれた。とても小さな船だ。まるでカチカチ山の狸が乗った泥船のような質素な作りの船でまだ泥で出来てない分ましだったが、何とも頼りないものだった。 それにその船の進め方が変わっていた。岸から離れ暫くは木製のオールで漕いでいたのだが、その方向がたき島の方ではなく別の方向へと向かって行く。何処へ行くのかと不安になった頃、浜野は漕ぐのをやめ腰を下ろした。 ぷかぷかと浮く船。いったいどうしたのか・・たき島へは行かないのだろうか・・ その時だ。まるで船が意思を持ったかのようにぐいっとひとりでに動き出した。どう言う事だ。誰かが海の中から船を動かしているのだろうか。私は海面の下をジッと見て見るが、何もいる様子はない。 浜野いわく、たき島の周りは、複雑な潮の流れが渦巻いているので慣れている人でないと容易に近づくことが出来ないという。唯一ただ一人浜野だけがこの複雑な潮の流れに乗り島に行けるのだそうだ。 ゆっくりと流れに任せて進む船は、着かず離れずを繰り返し約二時間かけて島の近くに着く。 「ここから入るんだ」 浜野が言った場所には、小舟がようやく通れる位の小さな洞窟があった。 「ここ?」 「ちょっと怖いわね」 「大丈夫よ。浜野さんもいるし」 特異な方法で船をたき島へと近づけた浜野に対し、妙な信用が生まれていた。 船はその洞窟の中に吸い込まれるように流れ入って行く。その間に浜野は船の先端にあるランタンに火を入れた。 ぼんやりとした明かりの中で見る洞窟は、ごつごつとした岩肌をむき出しにした岩が左右から迫り、上からはぽたぽたと水滴が落ちて来る。下を見ると、真っ黒な墨汁のような海の水。本当にこのまま進んでいいのだろうかと不安になるには十分だった。 ガツンと船がどこかにあたった。軽い衝撃が体をぐらりと揺らす。 「さぁ着いた。ここを真っ直ぐ歩いて行くんだ。そうすれば東方村に出る。だがその村には入るな。山沿いを歩くんだ。歩いて行くと隣の村、西方村に出る。その村で色々調べて見るがいい」 「有難うございました」 「あの、出来れば帰りは三日後に迎えに来て欲しいんですけど」 カズがそう言うと、浜野は露骨に嫌な顔をしたが 「分かった。いいか、約束を守るんだぞ。それと・・これを持って行きな」 と、懐中電灯と自分の首から外した数珠を渡してきた。 黒く小さな球の数珠。 「これは・・」 「わしの死んだ爺ちゃんがしていた数珠だ。きっとあんたらを守ってくれる」 「はぁ・・ありがとうございます」 浜野は私達を船から降ろすと岸から船を放しまたゆっくりと流されて行った。 浜野を見送った私達は、これから入る島への期待を胸に 「さ、しゅっぱ~つ!」 「お~っ!」 三人力強い足取りで真っ直ぐに伸びる洞窟を歩いて行った。 しかしこれが結構大変だった。勾配のキツイ上り坂を延々と歩くのだ。 私とカズはなんとか行けるのだが、体力に自信のないゆかっちは「ひぃひぃ」言いながら、半ば四つん這いになるようについてくる。 「あっ明かりが見える!」 「本当だ。出口じゃない?」 「やった~!」 三人は外の世界に向けて走り出した。
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