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季節外れのタンポポ
暗い洞窟を抜けると、まるで密林のジャングルの中に迷い込んだかのように背の高い木々が辺り一面に生え、私達の前に壁の様に立ちはだかる。背の高い草がそれを後押しするように行く手を遮る。
「いや~っ!こんなの聞いてな~い」
早速ゆかっちが泣きごとを言う。
「しょうがないわよ。管理されてる訳じゃないんだから。私が先に行くから後からついて来なさい」
さすが「ダイアモンド」のリーダー。臆することなくガサガサと藪漕ぎをしながら鬱蒼とした草むらの中へ入って行く。
仕方なく私達もカズの後に続いた。
暫く歩くと、ようやく草むらから出ることが出来少し広い場所に出た。
出た先で目に飛び込んできた物は、真っ白な世界だった。私達は自分達が見ている物が何なのか理解できず呆然と立ち尽くす。
「なにこれ・・雪?」
よく見てみるとそれは全てタンポポの綿毛だった。それが、足の踏み場もないほど地面に敷き詰められているのだ。
「タンポポ?今の時期に?」
今は十月。確かタンポポが綿毛になる時期は四月から六月辺りだったような気がする。
私は近くにあるタンポポを一輪手に取りまじまじと見た。
「タンポポ・・よね?それとも違う種類のタンポポなのかしら」
そう言って勢いよくふぅ~っと綿毛を飛ばす。勢いよく飛んだ綿毛は、バラバラになりユラユラと落下傘のように地面に落ちて行った。
「あ、見て!蝶々!・・でも何だか気味悪いわね。あんなに真っ赤な蝶なんている?」
真っ白な綿毛の上にひらひらと舞う真っ赤な蝶。綿毛の白さで蝶の赤色が一層映えて見える。
「でもこんなにタンポポの綿毛なんて見た事がないわ。やっぱり来て良かった~!」
「そうね!早く行こう!」
「行こう行こう!」
私達はタンポポの綿毛で敷き詰められた真っ白の絨毯を歩いて行く。
歩く度に綿毛がフワフワと舞う。まるで雲の上を歩いているようだ。歩いている内にいい気分になり足取りが軽くなる。このままずっと歩いていたいような気持ちになってきた頃、目の前に荒れ果てた廃村が見えてきた。
「うわぁ・・」
この時の三人は、浜野が言った「東方村に入らず、山沿いを歩いて行くんだ」という言葉はすっかり頭から消えてしまっていた。
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