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東方村
村に入り細かい石が転がる砂利道をじゃりじゃりと歩いてく。草が生え放題の畑に、あばら家のような朽ちた家が六軒程建っている。長い時間をかけてゆっくりと自然に還っているかのようだ。
私達は村全体の様子を見た後、一軒一軒確認してみる事にした。
一番近い家の前に立ち見上げる。茅葺き屋根の昔ながらの家だ。もう屋根の茅は半分ほど無くなり骨組みが見え、家自体も右の方へ少し傾いているようだ。
「中見て見ようか」
カズが率先して家に近づき建付けの悪そうな引き戸に手をかける。壁も崩れ落ちどこからでも家の中に入れる状態なのだが、一応人の家。玄関から入らないといけないと思ったのかもしれない。
家が傾いているためか開けずらくなった引き戸はガタガタと大きな音をたてて開く。
「お邪魔しまぁす」
家の中はヒンヤリとしていた。直ぐ土間になっており、住人が使っていたであろう竈や桶、茶碗などが転がっている。左側に二間続きの部屋があり、手前の部屋には囲炉裏があった。
ヒンヤリとしているだけでかび臭い匂いなどは全くない。上を見上げると青空が見える。
「もうほとんど外ね。あんなに開いてるから臭くないのかな」
「かもね。なんか時代劇に出てくる家みたくない?」
ゆかっちは少し興奮しているようでしきりにカメラのシャッターを押している。
私は囲炉裏を横目に奥の部屋へと入って行った。
奥は六畳の畳敷きの部屋だった。所々畳が腐り落ちているが、葛籠が二つあるだけで他に何もないガランとした部屋だった。一応その葛籠の中身を調べてみる。何も入っていない。
「本当に何もない家ね。他の家もこんな感じなのかしら?」
ぐるりと部屋を見渡した後、次の家へと行く為外に出た。
その後全ての家の中を見て回ったが、朽ち果ての具合が多少違うだけでどこも似たような物だった。
「さてと、何処に拠点を置きましょうか」
カズはキョロキョロと辺りを見回し、適当な場所を探す。
泊まり込んで、夜に生き返るという村の様子を見る。夜に人が戻るのであれば家の中に隠れる事なんかできない。となると、草むらの影か家の周りで隠れられるような場所を見つけないといけないが・・
家以外は畑しかない村。身を隠すような場所がない。私達は村の家の様子が一望できる場所を選び、草むらの中にシートを敷きそこで夜を待つことにした。
「虫よけ持ってきて良かった」
「あ、貸してぇ」
「夜は冷えるかしら。それにメイク落とすような所ないし・・」
「あ、メイク落とすシート持ってるよ」
「本当、じゃあ後で頂戴!」
「ねぇねぇ。お菓子食べる?」
「あ、食べる食べる!」
もう遠足のようだ。
ワイワイと騒ぎながら夜を待つ私達は、日が暮れた後にまさか本当にあんなものを見るとはこの時は思いもしなかったのである。
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