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夜に生き返る村
何か聞こえる・・・何の音?・・・太鼓?
ドォ~ン・・ドォ~ン・・ドォ~ン
ふと目が覚めた。視界が暗い。
(ここは・・・?)
雲一つない夜空に沢山の綺麗な星と大きすぎる満月が出ている。こんなにも空には星があったのかと思う程沢山の星だ。
私の故郷でもこんな星空見た事ない。まして今は、夜でも明るい東京に住んでいる。私は暫くの間夜空に敷き詰められた星空に見惚れていたが、直ぐに今の状況を思い出し
「あ、いけない!寝ちゃった!」
慌てて起き上がり二人を見る。ゆかっちもカズちゃんも気持ちよさそうに寝息を立てている。朝も早かったし、ここまで来るのに疲れてしまったのだろう。
「起きて。起きて」
「ん・・・・」
「もう夜になっちゃったわよ」
「え・・夜?じゃあお店手伝わなくちゃ」
「ゆかっち何を寝ぼけてるのよ。私達今たき島にいるのよ?」
「あ、そうだった。へへへ」
「ね、ちょっと見て」
草むらから顔だけを出して村の様子を見ていたカズが囁くような声で私達に言った。
「なに?」
「どうしたの?」
「あれ見てよ」
街頭もない真っ暗な村にいくつもの弱い灯りが灯っている。その灯りはどうやらそれぞれの家の中から漏れる灯りのようだが、不思議な事にあれだけ朽ち果て崩れ落ちてた家々が元の形を取り戻している。
満月の月の灯りに照らされた村に真っ黒な影がいくつも見えた。
目を凝らしてよく見て見ると、その影は畑仕事をしているのか鍬を振り下ろしたり、草をむしったりしている。心なしか草だらけの荒れ放題だった畑には規則正しく苗が並んでいるように見える。シルエットから察するに、手ぬぐい被りをして着物の裾を尻までは背負っている様子から畑に出ているのは男達のようだが、中には女の影もいる。その女の背中には赤ん坊を背負っているのか、時折首を後ろにやりあやしているそぶりを見せる。あぜ道には子供達が走り回り、少し大きめの子供は親の手伝いをしたり小さい子の面倒を見ている。
ざっと見ただけでも二十人以上の人達が動いているのにもかかわらず、全く音が聞こえない。しぃんと静まり返った村に動く影。ソレは異様な光景。まるで無声の影の映像を観ているような不思議な感覚だった。
なんて事のないゆっくりとした村の日常の姿。
~夜になると村が生き返ったように動き出す~
本当にあのサイト主の言ったとおりだった。
私は、今でこそ自分をさらけ出せる友達が出来楽しく過ごしているが、今までは自分を隠し人の顔色を伺い行動していた。嘘なのか本当なのか分からない言葉を並べ立て、感情の入っていない笑顔を向けながらうわべだけの付き合いをする。世の中の女は、年収だけで男を判断しその男に気に入られようと自分を磨く。若者は、流行に乗り遅れないよう片手に持った小さな携帯をしきりに操作し自分に情報を詰め込んで行く。そんな日常が当たり前のように流れている環境にいた私にとって、目の前の影達・・いや、村人達の自給自足の生活。今ある道具だけでする生活。村人達だけの情報。ソレはきっと、どこの誰が身ごもった。誰々の娘が嫁に嫁いだ。等だけでいいのだ。ゆっくりと時が流れる村。
そう感じた私は、月明かりの下で動く村人達の影を見て何だか羨ましくなった。
タン。タン。タン。
突然、何かを突くような音が聞こえてきた。
他の二人も聞こえていたようで三人同時にその音の方を見る。
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