夜に生き返る村

2/3
前へ
/64ページ
次へ
そこには、子供の影が二人いた。片方の子供の影が丸いボールのような物をついている。どうやら毬突きをしているようだ。 (人の声とか他の音が聞こえないのに、毬が地面につく音は聞こえるのね) そんな事を考えながら、規則的につかれる毬を見ていた。 すると、何処からか歌が聞こえてきた。 「一つ米粒減らしたら~一人ケンサン行く羽目に~二つ米粒減らしたら~二人目ケンサン行く羽目に~三つ目(みつめ)の米粒減らぬよう~食べないよう~見ないよう~」 毬を突いている子供が歌っているようだ。声からして女の子だろうか。 歌に合わせて体全体で調子を取り毬を突く。おかっぱの髪が優しく揺れ、ソレに合わせるようにチリンチリンと澄んだ可愛い音も聞こえる。歌が終わるとまた初めに戻り歌い始める。 今までで聞いた事のない歌だった。 三人は、その可愛らしい声で歌う歌に聞き惚れ毬を突く女の子の事をジッと見ていた。 タタン、タン、タン。 毬を突く調子が変わり子供の手から離れた毬が私達が隠れる草むらの前にコロコロと転がって来た。 するとすかさずゆかっちが草むらから飛び出るとその毬を拾い、毬を追いかけてきた女の子に差し出した。影の毬の感触はフワフワとしてまるで綿あめの様だったと後でゆかっちから聞いた。 近くに来た女の子は他の村人達と同じように真っ黒な影なのだが、頭に真っ赤な蝶の髪飾りをしていた。その髪飾りの赤色は影ではなく目にも鮮やかな赤色として見える。 子供は、ゆかっちが差し出した毬を受け取っていいのかどうか迷っているようで中々手を出さずもじもじとしている。 「はい。どうぞ」 ゆかっちはその子と同じ目線になるようしゃがみ、毬を差し出す。受け取る勇気が出たのか女の子はおずおずと手を伸ばした。その時に手が少し触れたらしいが氷のようにとても冷たかったという。 「あ・・ありがとう」 女の子は、小さな声でそう言うともう一人の子供の元へ走って戻って行った。 「どういたしまして。子供って本当に可愛いわ~私にも産めたらいいのに」 ゆかっちはため息とともに言った。 するとカズが 「ん?ちょっと待って。あの子返事したわよね?」 「そうね。ありがとうって言ったわ。もしかしたら話せるのかもしれないわね」 「じゃあどうする?この村の事誰かに聞いてみる?」 「あ、それいいわね。過去にあった事を過去の人に話を聞くなんて絶対できない事だもの。それって凄くない?本能寺の変の真っ最中に、織田信長に心境を聞くようなもんよ。それに、今日泊まる所も世話してくれるかもしれないし」 この時、少し時間をおいて冷静に考えてみれば良かったと思っている。夜に生き返る村。動き出す影の村人達。考えただけでもおかしな状況なのだが、この時の私達はどう言う訳か恐怖心と言うものが少しもなかった。カズが言う過去にあった事を過去の人に話を聞くという普通なら出来ないことに、気持ちが高揚していたのかもしれない。 早速私達はシートを片付け荷物をまとめると、畑作業をしている村人の影の方へ歩いて行った。ゆかっちは村の様子をしきりにカメラに収めている。 だが、次の瞬間ぐにゃりと視界が歪んだ。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加