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「な、なに?」
「え?」
「あらあらなにこれぇ」
驚いた私達は目をパチパチとしばたたかせたり目をこすったりして何とか視界を取り戻そうとする。何と言うか、水の中で目を開けているようなあんな感じ。
歪んだ視界がようやく元に戻った時、先程までしぃんと静まり返っていた音のない村にゆっくりと音が戻って来た。
「あ~疲れた。もう休むとするか」
「まだ早いよあんた。あんたはいつもそうだ」
「お~い。母ちゃん。与四郎が泣いてるよ~」
「鬼さんこちら。手の鳴る方へ」
姿形は影のままなのだが、声が聞こえるだけで臨場感が増し先程よりも本当に村人達がいるように感じてくる。
「やだ、喋ってる声聞こえない?」
「うん聞こえる」
「不思議ねぇ」
私達はチャンスとばかりに近くのあぜ道に座り一服している男の影に近寄ると、代表でカズが声を掛けた。
「すみません。突然申し訳ないんですけど、私達この島の歴史を知りたくて来たんです。お話伺ってもよろしいですか?あ、こんな格好してますけど、決して怪しい者じゃないんですよ。今の現代ではね。おねえという人種が増えてまして」
「ハハハ!人種って何よ。まるで新種発見みたいに聞こえるじゃない」
「そうよ。昔と違って、自分を主張できるようになったって言った方がまだいいわ」
私とゆかっちは笑いながら、カズの言った事に反応する。
いきなり話しかけ勝手に盛り上がっている五月蠅い三人が近くにいるというのに、男は何の反応もなくゆっくりと煙草のような物をふかし畑を眺めている。
「ちょっと、今この人に話しかけてるんだから邪魔しないで。すみませんうるさくて・・あのぅ・・もしもし?」
ようやく私達は男の態度がおかしいのに気が付いた。
(無視?)
「ねぇ。もしかしたら、お仕事中に突然話しかけたから怒ってるんじゃないの?」
私はカズに耳打ちをする。
「そうかもね。忙しそうにしてない人見つけてみようか」
私達はそっとその場を離れると、別の村人に声を掛けて見た。しかし結果は同じ。何人もの人に声を掛けるが、皆反応はなかった。どうやら村人には私達の声が聞こえていないらしい。
村を歩き回り沢山の人達に声を駆け回った私達はほとほと疲れてしまい、道端で座り込んでしまった。
「あ~疲れた」
「ヒールなんて履いて来るんじゃなかった」
ゆかっちはヒールを脱ぎ足を投げ出す。
「でもおかしいと思わない?何でさっきの子は私達と喋れたのに他の人は出来ないの?」
「そうねぇ。ね、もう一度あの子に聞いてみない?唯一私達と話せる子だし」
「そうね」
「え~また歩くの?」
「ほら、頑張って!」
ゆかっちの手を引っ張り立たせると、さっきの子が毬突きで遊んでいた場所まで戻った。
「あら?いないわね」
「本当だ。確か頭に赤い髪飾りしてたわよね。ソレが目印なんだけど・・」
「そうね・・・・でもさ、他の村の人達に声を掛けてて思ったんだけどさ、みんな真っ黒な影なのにどうしてあの子の頭の髪飾りだけ色が分かるの?なんで?」
「・・そう言えばそうね」
「うん・・」
余程疲れたのかゆかっちはその場に座り込んでいる。心なしか頭のアフロがぺシャンとして元気がない。
ドォ~ン・・ドォ~ン・・ドォ~ン
「え?」
腹の底に響くような音が聞こえてきた。太鼓のような、巨人が足を踏み鳴らしているような、何とも不安になる音だ。
「何?この音」
怖くなった私は二人に聞いた。
「え?音?」
二人はきょとんとした顔で私を見る。
「聞こえない?ドォ~ンドォ~ンって鳴ってるじゃない」
「え~?聞こえないけど・・ねぇ」
「うん。何も聞こえないよ」
そんな・・・私だけに聞こえるの?こんな大きな音なのに?
「嘘っ⁈こんなに大きな音なんだよ?ほらっまた鳴った!ね、聞こえるでしょ?」
「聞こえないって。こうちゃん疲れてるんじゃない?それよりさ、さっきの話だけどもしかしたらあの子は特別なんじゃない?」
カズは呆れたように私を見ると先程の話題に話を戻した。
「特別?どう言う事?」
「う~ん。よく分からないけど、あの子はこの島の過去と現代の私達との窓口のような存在とか・・・」
「なにそれ・・」
「そうじゃないにしても、何かしら意味があるのよきっと」
カズは一人頷きながら自分の仮説に自信があるように言った。
二人が話している間も、太鼓のような音は鳴りやまない。
(私どうかしちゃったのかしら・・それとも二人がおかしいの?)
混乱し、今だ聞こえる音に呑み込まれそうな感覚になった私が耳を塞ごうとした・・その時だ。
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