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「八兵衛の奴、とんでもねぇ事を言い出しやがった」
「本当だ。口減らしなんぞ考えただけでも恐ろしい」
「そんな事をするなら、雨乞いでもした方がいいんじゃないか?」
「ああ、雨乞いか。でもあれって本当に降るんだろうか」
「分からん」
「あ~もう!上手くいかんなぁ。雨さえ降ってくれればいいんじゃ!」
頭を抱える者、八兵衛の提案に怒りを露にする者。先が見えない事の不安に肩を落としトボトボと歩く者。それぞれの反応をしながら家に帰って行く。
(大変だわ)
そう思いながら、私は暗闇に消えていく影達を見送った。
「なぁ八兵衛」
(ん?)
まだ家に誰か残っているようだ。私とカズは急いで家の戸口の側にある窓の所まで行くと中を覗き込んだ。
家の中には、あの恰幅の良い八兵衛ともう一人ヒョロヒョロに痩せこけた影がいた。
「流石に口減らしは行き過ぎじゃないか?」
痩せこけた影が八兵衛の前へにじり寄りながら言う。
「なんじゃ誠二郎。俺の考えが間違ってた事があるか?」
(誠二郎?ああそうだ。確か八兵衛の案に反対した人物がいたって書いてあった。この人が誠二郎・・)
私は窓に張り付くようにして中の様子を伺った。
「いや、お前の考えはいつも正しかった。どんな時でも冷静でその場に応じた判断を的確にしてくれる。俺には到底真似できないよ。でも・・今のこの時点で口減らしをするのは、いくら何でも早計だと俺は思う」
「ふん。何が早計だ。いいか誠二郎。俺はちゃんと先を見越して言ってるんだ。今までこんなに雨が降らなかった事があったか?ないだろう?それに今年は今まで降った事のない雪がこの島に降った。颱風は何度も来たが雪は初めてだ。それだけでも今年の天気はおかしいことが分かる。行き過ぎるぐらいの考えを持って行動しないといずれ村が全滅してしまうぞ?それでもいいのか?」
「・・よくないけど・・でも、でももう少し。もう少し待って他の策を考えようよ。八兵衛ならソレが出来るだろ?」
縋るように誠二郎は八兵衛に近寄る。
「ふん。無理だな」
誠二郎から顔をそむけた八兵衛は冷たく言い放った。
「・・・そうか。でも、村の人達はお前の案には乗らないと思うぞ」
「だろうな。でもいずれ・・また俺を頼って来る。見てるがいいさ」
真っ黒な人の形をした影が話している様子しか見えずどんな表情で話しているなんて分からないのだが、私には八兵衛の顔が嫌らしく歪んだように見えた。
肩を落とし八兵衛の家を後にする誠二郎の影を見送った私達は、疲れたと言って一人で待っているゆかっちの元へと戻る事にした。
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