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「そう。そんな話をしてたの・・なんか可哀想ね」
その話を聞いたゆかっちは、まるで自分の事のようにショックを受け目に涙を浮かべている。ゆかっちの感受性は普通の人の十倍ぐらい強いのかもしれない。
「仕方ないわよ。昔の日本では・・ましてやココは孤島でしょ?そういう方法でしか乗り切れないと思ったのよ。ヘリもなかっただろうしね」
ゆかっちとは違いカズは結構ドライな所がある。冷静に物事を見ることが出来ないとリーダーは務まらないのかもしれないが、たまに冷たいなと感じる時がある。
「それにさ、こんな時に何だけど、私達にはもう一つの目的がある事を忘れてないわよね?」
「目的?裏歴史を調べる事と・・あと何だっけ?」
私はゆかっちを見る。ゆかっちも分からないらしくアフロを揺らし首をひねる。
「もう!願いを一つ叶えてもらうんでしょ?」
そうだった。村人達が探している物を見つけ渡してあげる事で、願いを一つ叶えてくれるという話だった。
本当に夜に村が動き出した事と、村人全てが影としている事に気を取られてすっかり忘れていた。
「しっかりしてよ!私達の願いは自分達のお店を出す事でしょ?」
(確かにそんな話でてたっけ、別に私自身はそれ程お店を出す事を望んでいる訳じゃないのよね・・でも、願い事は一つしか叶えてもらえないというのならそれでもいいか。私自身、こうやって本当の自分を出すことが出来てるんだし)
「そうね。でも、村人達が探してる物って何だと思う?」
「そうなの。そこよ。今この村は雨が降らなくて大変な時を迎えてる訳でしょ?水?食料?でも、そうだとしたら私達が持ってる食料を渡すことが出来るのかって話よ。だってあの影達は過去の村人達なんだから」
ごもっとも。
「う~ん」
三人は首をひねり考え込んだ。
「おじちゃん」
突然声が聞こえた。三人並んで座り考え込んでいた私達は一斉に顔を上げた。
(おじちゃんと呼ばれて顔を上げた私達は女になりきれてないのだろうか)
少し複雑な気持ちで声がした方に目をやると、目の前にあの赤い蝶の髪飾りをした女の子の影が立っていた。
「あ・・」
「おじちゃん。こんな所で何をしてるの?」
「おじちゃんって・・あのね、私達は男だけど気持ちは女なの。見た目もお姉さんに見えるでしょ?」
カズがそう説明するが、女の子は分からないようで首を傾げる。その拍子にチリンと小さな可愛い音が鳴った。その時気がついたのだが、蝶の髪飾りに小さな鈴がついていた。それが首を傾げた拍子になったのだ。
(ああ、毬突きをしてた時のチリンって音はこれだったのね)
涼し気な可愛い音を出す鈴だ。
「そうだ。あなた、何か知らない?村の大人達が探してる物が何か知りたいんだけど」
ゆかっちが聞く。
「探し物?」
「そう。何かお父さんとお母さんが話してなかった?」
「う~ん」
今度は反対方向に首を傾げる。おかっぱの髪がさらりと流れる。
チリン
本当に可愛い音だ。女の子の仕草もとても愛らしく、真っ黒な影となっている事がもったいないくらいだ。
「分からないかもしれないわ。あなた今何歳?」
「何歳?」
「そう。自分の年齢よ。六歳位かしら?」
「ねんれい?・・知らない」
年を数えるという概念がない村なのだろうか。こういう離れ小島にある村にこそお祝い事などは村人全員でしていても不思議じゃないのだが。
「まだ分からないのかもしれないわね」
カズはため息交じりに言った。
「そうだ。もう一つ聞いていいかしら」
私は聞きたかった事を思い出した。
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