二度目の話し合い

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二度目の話し合い

「もうだいぶ降っていないな」 「ああ。もう限界だ」 「芳太郎を見て見ろよ。村一番太っていた奴があんなに痩せこけちまった」 「俺の家の食料も水もう底をつきそうだ」 村人の会話を聞くに、どうやらまだ雨は降っておらず残された食料や水も少なくなってきて限界が来ているようだ。前回見た時と違い、座っているだけでも辛そうな者や壁にもたれかかっている者。頭を垂れ打ちひしがれている者が目立つ。 そんな村人の様子を見て、八兵衛は 「もう口減らししかないじゃろ」 と言い聞かせるように言った。 前回はその言葉に村人達は色めき立ち反対していたが今回は違う。皆何も言わず黙っているだけだ。 「早くするべきじゃったが、お前達が反対したもんだから状況がもっと悪くなった」 と八兵衛は続ける。 八兵衛は私達の方に向いて座っているので顔を見ることが出来るのだが、その黒い顔は勝ち誇ったように口元をニヤリとさせたように感じた。 「・・・・・」 皆が何も言えず黙っている中、誰かの声が小さく聞こえた。 村人達もそれに気が付いたようで、声がした方に顔を向ける。 「口減らしは良くない」 小さな声だったが、今度は何を言っているのかハッキリと聞きとる事が出来た。 「じゃあどうする」 八兵衛がその声の方に顔を向け問う。少々馬鹿にしたような口ぶりだ。 村人と八兵衛が視線を向けた方は、私達からは四角となり誰が言ったのか見えなかったが声からして誠二郎だろうと考えた。村人が帰った後も口減らしについて八兵衛と話していたので覚えている。 「もう少し・・もう少し待てば降るかもしれん。その間、皆の家にある食糧や水を集めて少しずつ平等に配ろう。そうすれば変な疑心暗鬼も出ないし、みんな同じだと思えるから気持ちも多少違う。それと、山に入って山菜や食べられそうなものを見つけるんだ。もしかしたらあるかもしれない」 「ふん。そんな事とっくにやってる。この島には今、なぁんにもないんだ。大体、そんな悠長な事を言っている場合か?今の現状を見てみぃ。体の弱い年寄り達がバタバタと死んでいる。事は急ぐんだ」 「そうだけど・・後少しでいいんだ。後少し・・」 切羽詰まった状況なのは分かっていても、何とかして口減らしだけは避けようとする誠二郎。だが、今まで傍観者として事の成り行きを見てきた私は冷たいかもしれないがどちらかと言うと八兵衛の考えに賛成だった。 いつ降るのか分からない雨を待つ。こんな運を天に任せるようなものを待つより、八兵衛の言う口減らしをした方が賢明ではないのか。 そう考えるという事は、命の危機を感じる事の少ない現代に生きている私の平和ボケのせいなのだろうか・・・ 「う~ん」 私は腕を組み考え込んだ。 そんな私を見たカズは口の端じを上げニヤリと笑った。 「明日・・いや、明後日まで待ってくれ」 誠二郎が言った。 「・・・分かった」 八兵衛がうなずいた時だ。八兵衛の側に、あの赤い蝶の髪飾りをした女の子が近寄って行ったのだ。 (あの子・・)       八兵衛は、自分の側に来た女の子を自分の膝の上に座らせ頭を撫でる。女の子は嬉しそうに八兵衛の方を振り向きながら頭を撫でられていた。 赤い髪飾りと同じ色の真っ赤な着物に黄色い帯を巻いているのが、遠目でも鮮やかに目に飛び込んでくる。それに、他の村人達の顔の部分が真っ黒な影なのに、その子だけは顔がちゃんと確認できる。まるで生きている人がそこにいるようだ。艶やかな黒い髪。くりくりとした大きな澄んだ目に、紅を塗ったように赤く小さな唇。 (え?なんで?何であの子だけあんなにハッキリしてるの?・・あの顔・・) そう思った時だ。また視界がぐにゃりと歪んだ。 四回目だ。今度は私も慣れたもので、視界が回復するまでじっと目をつぶり待つことにした。歪んだ世界は頭の方までくらくらさせるからだ。 他の二人も同じ事を考えたらしく、何も言わず黙っている。物音一つしない中、暫くして私は目を開けた。
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