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三度目の話し合い
次に見えて来たのは、さっきと同じ八兵衛の部屋の中に集まる村人達の姿だった。
ただ先程と違うのは、家の中にいる村人達の薄かった色がハッキリとした色になっている。しかし、顔の部分だけは真っ黒な影のままだ。
その村人達は囲炉裏を境にして左右に分かれ座っている。
その状態を見た私は日記に書かれていたことを思い出す。
(確か・・八兵衛の案に乗る奴と誠二郎の案に乗る奴とで別れたって書かれていた。ここで遅れて来る人・・日記を書いた人が来るはず)
その時、後ろから走って来る音が聞こえた。振り向くと、着物の裾を端折り大慌てで駆けつける男がいた。
(あの人ね)
男は家の中に飛び込むと、その場の状況をすぐに把握できなかったようではぁはぁと荒い息をしキョロキョロと二手に分かれている光景を交互に見ていた。
少し息が落ち着いてきた頃、状況を把握する事ができたのか男は八兵衛がいる方へゆっくりと近づき座る。
ソレを見た私は
(あれ?確かあの人は誠二郎の方につくんじゃなかったっけ?別の人かしら?)
しかし、その後誰もこの家に来る者はいなかった。
家の中では話し合いが続き終いには声を荒げ喧嘩のように言い合いになってきた。
「お前らは薄情だ!」
「薄情なもんか!この村が無くなってもいいのか?」
「そうだそうだ!」
「村が無くなるもんか!」
「そうだ!お前達がやろうとしている事は極悪非道な事だ!」
「自分の為に家族を殺すんだぞ?」
「恐ろしい・・恐ろしい・・」
「何が極悪非道じゃ!村を存続させるにはこれしか方法がないんじゃ!」
「そうだ!綺麗ごとでは生きられんのじゃ!」
今までみんなで悩み、何かいい策はないかと思案していた村人達が二手に分かれた事で互いを罵り合い自分の意見をぶつけ始める。どちらも自分の考えが正しいと思っている。
この世の中に正しい答えなんかあるのか?
私はそんな村人達を見て、自分の過去を思い出す。「男とはこうあるべき」「男なんだから当たり前」「仕草が男らしくない」「男なのにそんなのが好きなの?」こんな言葉を聞いている内に、男ってなんだ?体が男だからなんだ?・・自分はおかしいのか・・周りの人の言っている事が正しいのか・・混乱と不安と恐怖・・
この世の生き物は全て雄と雌しかいない。その二つ以外の者はおかしな目で見られる。
私は、所詮人間とはこういうものなのかと冷めた目で村人達の様子を見ていた。
「どちらにせよ。村を守るという想いには変わらない。ただそれが人を減らすか、食料を減らすかの違い。いずれ結果は出る。それにしてもこういがみ合っていたのでは別の厄介な問題が出かねん。どうだろう。ここは東と西に分かれてみるのは」
今まで黙って村人達の話を聞いていた八兵衛がそう提案をした。
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