古びた日記

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古びた日記

小笠原諸島南西に位置するたき島は2000年に、国の調査が入り無人だということが分かっている。日本では六千以上の無人島が存在すると言うが、なぜこのたき島は最近まで調査が入らなかったのだろうか。不思議に思った私は、船でたき島から少し離れた古里島へと行って見た。そこから見るたき島はすり鉢のような形をしており船で行くのは困難だという事だ。 もう一つ分かった事は、この古里島の人達はたき島に対し畏怖の念を持っている事だ。 古里島の人達は皆「あの島は悲しい島だ」「そっとしといてやれ」「ここまで来たのなら、手を合わせて行った方がいい」など、何かを畏れているようだがどことなく崇めているような・・何とも不思議なものだった。 そんな時、私が知り合いのつてで手に入れたある日記があった。それにはたき島の驚くべきことが書かれていた。 とても古い物で、所々シミや破れがある為読めない個所もあったが何とか読めるよう補足してみた。 明神三年 二月二十九日 この島に初めての雪が降る。 村人達全員が初めて見る白く冷たい物を手に驚くが、村で島の外の事を知る谷郷が「これは雪だ」と教えてくれた。危険はないという。谷郷の教えで、子供達は雪だるまなるものを作る。雪合戦と言うものは丸く固めた雪をお互いにぶつけあう遊び。これが中々楽しい。 大人達も子供に混ざってはしゃぎながら遊ぶ。皆、初めて見る雪に歓喜し神様の贈り物だという者もいたが、私には不吉な予感しかなかった。 四月三十日 私の勘はやはり的中した。雪が降ったのを最後に、全く雨が降らなくなったのだ。あの雪は我々にとって警告だったのだろうか。去年採れた作物があるので、それで何とか食いつないでいる。畑にも水をやれず飲み水の減る一方だ。 この島には川がない。飲み水や畑にまく水は、自分達で貯めた雨水を利用しいる。谷郷が井戸を掘ろうとしたが、海水が混ざっているため断念。仕方なく雨が降った時に出来る限りの桶を外に出し雨水を取ったり、小さなため池のような物を掘りそこに溜まる雨水を利用している。大丈夫だろうか。早く雨が降ってほしい。 七月十五日 あれから五か月が経つ。今日も雨が降らなかった。空には憎らしいお天道さんがいつもいる。 ため池の水や、自分達で貯めていた水が少なくなってきた。何とか食料は保つことは出来ているが、これからどうなるのか。 そこで、村の中で一番頭の切れる八兵衛の知恵を借りに村人の男衆が集まった。 そして自分達の畑の状態や川の水の量の事等を報告しあう。そんな時、八兵衛は驚くべきことを口にした。ここに書くのも恐ろしい言葉。 余りの事に村人達は口を開け、その言葉の意味を理解するのに時間がかかった。 勿論、みんな大反対だった。 そんな非道な言葉を口にした八兵衛を罵り、話し合いは終わりになった。 八月十五日 水が大分少なくなってきていた。夏に収穫できるはずの野菜が全て全滅したお陰で食料も不足してくる。 村人達も自分達の家族が食べる分を確保するので精一杯だ。隣のばっちゃんが飲み水を分けてくれと言って来たが、俺の家は小さい子供がいる。子供に飲ませてやりたい。だから「もう家にも水はない」と嘘をついた。 駄目だと思いつつも習慣で畑を見に行くが、干上がり地割れが出来ている。 米蔵に会った。あいつの家はどのくらいの水と食料を持っているのか。 「うちも底をつきそうだ」なんて言ってたけど本当だろうか。    中略 十月二日 もう一度、村の男衆は八兵衛の家へと集まった。 村人の限界が近づいていた。 二軒先の芳太郎なんか、村一番太っていたのに今じゃその影もなく痩せこけてしまっている。あいつの家も子供が四人、爺さんもいるから大変なんだろう。 八兵衛の家に集まったのはいいが、誰も口を開く者はいなかった。何故なら、分かっていたからだ。もう決断しなくてはいけないと。 ただ、それを自分の口から言いたくないのだ。みんな下を向き押し黙る。目も合わせない。誰かが言ってくれるだろうと思っているのだ。 そしてあの言葉を口にしたのはやはり八兵衛だった。 今度は誰も反対する者はいなかった。静まり返った部屋にぎゅうぎゅうに詰め込まれた男衆の荒い息遣いと、囲炉裏の炭がチリチリと爆ぜながら燃える音だけが響く。 「早くするべきじゃったが、お前達が反対したもんだから状況がもっと悪くなった」 そう言った八兵衛の顔は二度と忘れないと思う。 これ見よがしに嫌らしく片方の口角を上げニヤリと笑ったあの顔。ああいう顔をする奴が血も涙もない決断をするのだと思った。 その時、部屋の隅の方から小さな声が聞こえた。 見ると、誠二郎が八兵衛の顔色を伺いながら何やら口をもごもごとしている。 八兵衛が「何だ」と問うと、誠二郎は「そんな事は出来ない」とこれまた小さな声で言った。 ソレを聞いた八兵衛はニヤリとあのいやらしい笑いをまた口元に浮かべ「じゃあどうする」と問う。誠二郎は「明日までに考えておく」と言い下を向き黙り込んでしまった。 私は、枯れ枝のようにやせ細り優しく吹く風にでも飛ばされてしまいそうな体をしている誠二郎が、神様のように見えた。 十月三日 今日も八兵衛の家で話し合いがあった。早く八兵衛の家へと行きたかったのだが、女房の具合が悪くなり家を出るのが遅くなってしまった。無理をさせているのかもしれない。何とか落ち着いた女房を見て、私は八兵衛の家へと急いだ。 家に入ると、先に来ていた男衆が部屋の中を二分割するように何故か二手に分かれている。何事かと聞くと、八兵衛の案に賛成派と反対派に分かれているという。 賛成派は八兵衛へつき、反対派は誠二郎の方へ。 反対派の誠二郎は村人の食料をすべて集め、それぞれで少しずつ分け雨が降るまで凌ぐという案だった。確かに、よその家がどのくらい食料を持っているのか分からず、疑心暗鬼の黒い雲がもくもくと大きくなっていた。隠し事が無ければ皆公平にお互いを助け合うようになるのではないか。そう考えた私は迷わず誠二郎の方へ座った。 日記の表記はここまでである。 その後、サイト主はこう締めくくっていた。 (私がその場にいたらどちらを選ぶだろう。先が見えない自然相手の問題。どちらが正解なのか・・ただ一つだけ分かっているのは、現在この島に人はいないという事。近くの島に移り住んだのか、それとも皆亡くなってしまったのか。こういった歴史があるせいなのか、この島には村人達の霊が出ると噂されている。 その村人は夜に活動する。残された廃村が、まるで人が住んでいた時のように村が生き返ると言う。そんな怪奇な噂に尾ひれはひれがつき、その村の住人はある物を探している。その探し物を見つけある家の前に置く。その時に「これを見つけたお礼に○○を叶えて欲しい」とお願いすると叶えてくれるという話もある。実際私の知人がこの島に行き探し物を見つけ願いを叶えてもらっている。簡単に行けるような場所ではないが今度私も行って見ようかと思っている)
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