いざ、たき島へ

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いざ、たき島へ

そして出発の日を迎えた。 カズから、横井川の河川敷で待ち合わせという連絡を貰っていたので大量の日焼け止めと着替えと食料を詰め込んだリュックを背負い、約束の場所へと急いだ。 河川敷と言っても広いのでどの辺りにいるのかわからない。私はつま先立ちで遠くを見るようにして二人を探す。 「え・・・もしかして・・あれ?」 私の目に入ったものは、赤と白の派手な色をしたヘリコプターが一機。その周りには関係者だろうか。何人かの人がうろうろしているのだが、その中に見覚えのある二人がいる。 カズとゆかっちだ。 「うそぉ!マジでぇ!」 百メートルを十秒五三が私のベストタイムなのだが、興奮も手伝いあの新記録を出した陸上選手を上回るスピードでヘリコプターがある場所へと走った。 「あっ!来た!来た!」 「本当だ!遅い!」 私に気が付いた二人が、身体にシナを作りながら手を振って来る。 「いやぁ!マジで⁈ヘリで行くの⁈」 二人の側についた私は飛びつくようにして聞いた。 「勿論。これの方が簡単に島に上陸できるしね」 今日も全身黒づくめの服を着て、盛大に顔を振り髪をなびかせるカズはニコニコして言う。 「あ、でもね。さっき操縦してくれる佐藤さんに聞いたんだけど、直接はたき島には上陸できないそうよ?」 お出かけ用なのか、小さな赤や黄色のリボンを散りばめたアフロにいつもよりも派手なヒョウ柄の服を着たゆかっちが言った。 「ええ?そうなの?佐藤ちゃん!ちょっと!」 驚いたカズは、ヘリの状態を確認している佐藤の所に駆け寄って行った。 「ねぇゆかっち。カズちゃんってヘリコプター持ってるなんて凄くない?一体どんな会社をやってるんだろうね」 「そうねぇ。ゆかっちが言わないんだから、私からは言えないんだけど・・これだけは教えてあげる。カズちゃんには家の事はあまり聞かない方がいいわよ」 「どうして?」 「私が言ったってカズちゃんに言わないでね」 少々口が軽いのか、言えないと言っていたくせにゆかっち声を潜めて話してくれた。 父親はいくつもの不動産を経営しているらしく、カズはかなり裕福な家の一人息子だそうだ。だが、カズの本来の姿に反対している父親は、何とかしてカズを一人の息子として・・男として跡を継いでほしいと考えているらしい。 そんな父親に反発するかのようにカズは、自分の人生は自分の物だと頑張って主張しているという。 「だから、カズちゃんは嫌うのよ。家の事とかお父さんの事とか聞かれるの」 「そうなんだ・・でも、よくそのお父さんの会社の縁を借りることが出来たわね」 「ん?あれはカズちゃんのヘリだからだいじょうぶなんだって」 「そ、そう・・・」 何とも、自分とは次元の違う世界の話だ。 確かに「ダイアモンド」の戸を初めて叩いた日。カズは「自分の人生なんだから」と力強く言っていた。 (カズちゃんも色々あったのね) いつもしっかりしていて、弱音を吐いた所を見た事がない。「ダイアモンド」のリーダーとして私達をグイグイ引っ張って行くカズを私はもっと好きになったような気がした。 「もう!しょうがないわね。たき島には直で行かないらしいわ。隣の古里島に一旦降りてそこから船で行くんだって。私船酔いするから船は苦手なのよね~」 そういいながら、小さなカバンから鏡を取り出しメイクのチェック。 「もうそろそろ出発します」 「は~い」 私は、初めて乗るヘリコプターに感激しまくりながら古里島までのフライトを楽しんだ。
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