act.1 熱風

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   成田空港に降り立つと同時にまとわりつくこの熱気と湿気。否が応でもここが日本であると自覚してしまう。  日本はお盆の時期なんだよな。ホントはこの残暑厳しき最中に、この地元に帰ってくる予定は無かったんだけど。 「昂輝、急ぐぞ」  先を行くエルンスト師範に呼ばれるが、急ぐならこの荷物を1個持って下さい。俺は両腕にデカいトランクケースを二つもぶら下げとんじゃ!  そりゃ、俺は実家に帰るだけだから背中のボディバッグ一つだけの軽装だけどね。この荷物は同行してる天武流合気道術NY道場の館長、御巫宗治九段(エラい人)の物だ。絶対ぞんざいには扱えない。 「久々の日本はかなり暑いな、私が住んで居た頃はまだそうでも無かった記憶があるのだが」  もう御年七十五歳を過ぎた筈の御巫館長だが、颯爽とした和服姿でスタスタと歩くそのお姿は年齢を全く感じさせない。  被っているその古ぼけたカンカン帽ですら風格を感じさせるだけだ。俺たちNY道場門下生にとって神様同然の方だ。  御巫館長の言葉に先を行くエルンストが振り返る。 「館長が日本に住んでいらっしゃった頃からはかなり暑くなっていますよ。40年位前ですよね?」 「ああ、もうそんなになるのか」 「今の日本の夏は亜熱帯と言ってもおかしくないような気候です。どうか水分の摂取をお忘れなく」  40年前では俺は生まれてさえいません。日本もその頃はまだこんな気温じゃ無かったんだね。 「ここからまっすぐスカイライナーで上野に出ます。そこから常磐線に乗りますから」 「ああ、よろしく頼む」  ここから更に三時間以上は掛かる行程だ。エルンストと御巫館長は湯本の街に宿を取っている筈だから、そこまでは頑張らないと。 「昂輝、早く来い」 「はいっ!」  重い荷物を引きずりながら、俺…出雲昂輝は急いで二人の後を追った。 48ccfa17-e3a0-41b2-b101-df47220c23ec JR成田空港駅
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