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ー翌日・昼前ー
「兄ちゃん、早く行こうよ~!」
ちょっと待て弟よ。急いで行きたい気持ちは分かるが、我が家の女子達全員を敵に回すつもりか。
「みぃ姉、髪結んで〜」
「はーい、ちょっと待っててね。私ももうちょっとで終わるから」
「ひかりの帯が金魚にならない〜!」
「ああもう、洸はやらなくて良い!俺がやる」
「おばあちゃん、この帯、これで良かった?」
「もうちょっと力を入れて締めないとダメかしら。夏那は細いから」
見事にドタバタだ。うちの女子全員が浴衣を着るとかって、ここは戦場か。
父ちゃんと拓海まで巻き込まれてるし。でも今日はばあちゃんがいる分かなりマシ。
「手伝いようがないもんな」
俺とじいちゃん、真也は見事にカヤの外だ。今日はさすがににゃん太は留守番、腹いっぱい食べてネムネムタイムのにゃん太をそっとトイレ兼用のケージに入れてロックする。誰もいない間になにかあったら大変だ。
晩メシにはみんなで戻るからのんびりしててくれよ。
それにしても父ちゃんと拓海のコンビネーションは見事だな。手早く凪紗の浴衣の着付けを終えて、今はひかりの着付けに掛かってる。母ちゃんがなんとかしようとしたみたいだが結局最初からやり直しだ。
「相変わらずだな、母ちゃん」
こっち方面の才能はまるで無いのは知っているけど。料理は上手だし絵本作家なんでそれなりファンもいる絵描きなのにその他の手先的な事はどうにもダメなんだよな。
「その分櫂が器用だから良いんだよ」
「まぁね」
じいちゃんも苦笑いだ。
「ほら出来た、可愛い金魚だ。洸、髪の毛やってやれ」
ふわふわの帯を着けたひかりが母ちゃんに渡される。なるほど、確かに帯が金魚のヒラヒラみたいだ。
「真ちゃん、ひかりを抱っこしてて」
「しーちゃ!しーちゃ!」
「は〜い、ひかりちゃん」
ひかりは真也が大好きなんだよな。ニコニコと真也に抱きついている。母ちゃんが不器用なりにひかりに一生懸命黄色のリボンを結んだ。うさぎの耳みたいなツインテールだ。
「やだ、曲がっちゃった」
やっぱり。
「お母ちゃん私がやるわ、お母ちゃんも着替えて」
そこに浴衣に着替えた夏那だ。紺地に鮮やかな紫陽花の柄がとてもよく似合う。これが美音の母親が作ってくれたという浴衣か。写メでは見たけど、実物はもっと良いなぁ。
「うん、お願い夏那」
母ちゃんも浴衣か。ばあちゃんも用意してるし、ホントにある意味出雲家オールスター戦だ。
さっさと可愛くうさぎになったひかりを抱き上げて真也とじいちゃんに預ける。あとは?
「はい、出来たわ凪紗、可愛いわよ」
「ありがとうみぃ姉ちゃん!」
こっちはポニーテールか。浴衣と同じ緑色のリボンだな、よく似合う。美音もいつもの銀の髪飾りだけどちょっと編み込んだりもしてるのかな?
母ちゃん達もそろそろ着付けが終わりそうだ。ばあちゃんはひとりでも大丈夫だって言うし。
「昂輝、母さん達の準備が終わったらすぐに出掛けるぞ。お前と夏那はハイエースでちび組と一緒だ。拓海と美音は父さんの車」
「分かった」
今は家族が多いからハイエースに乗り切れないもんな。拓海達はじいちゃんの軽で移動になる。
それでもこの家族が全員揃っての外出なんて初めてだから、なんかそれがワクワクする。
「ホントにうちは大家族だね、楽しいよ」
ひかりを笑顔であやすじいちゃんも俺と一緒だ。
とりあえず父ちゃんと俺が一足先に出て車を2台準備する。
父ちゃんはいつものハイエースだけど、じいちゃんの方のこの軽、なんかデカくない?
DAIHATSUのWAKEって言う車種らしいけど、全体的にデカいよこれ。普通乗用車ぐらいのゆとりがある。
うちはじいちゃんが外国人で結構デカい人だけど、これならラクラクだな。
「拓海と本格的に家庭菜園を始めるから、軽でもとにかく物が積めるものにしたんだよ」
じいちゃんが言ってたな〜やっぱり相変わらずだ。
それでもなんとかうちの女子全員の準備が整う。みんな華麗な浴衣姿で、これはある意味凄いドレスアップだ。あとで写真を撮っておきたいくらい。
まぁその中でも一番綺麗なのはやっぱり俺の夏那が鉄板だけど。長い髪を右側でひとつにまとめて綺麗なリボンでまとめてる。うん、やっぱり可愛いな。
「ああ、やっぱり薔子が一番艶やかだね」
おや、じいちゃん?確かにあの薔薇の花をあしらったばあちゃんの浴衣はど迫力だけど。その花に負けてないばあちゃんの艶やかさは認める。
母ちゃんは…なんだっけこの花。ばあちゃんに比べると誰もが地味だが、一段とこじんまりとした…あ、スズランだ。これはこれで母ちゃんには似合うな。髪飾りもスズランなのか。
とりあえずここにいる俺、親父、じいちゃんは互いの嫁が一番と思ってのるに違いないけどね。言葉に出すか出さないかの違いだけ。
いや、きっと拓海もか。美音が一番かな…兄ちゃんは知ってるぞ。
「「早く行こ〜〜〜!!」」
おっと、そこに参戦するのはまだまだ早いちび組の凪紗が真也と騒ぎ出した。玄関先でぴょんぴょんだ。
「父さん、行くか」
「ああ、そうだね」
苦笑した親父とじいちゃんが腰を上げた。
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