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露店は地元の企業や商店が出店してる物や、普通にお祭りの露天商が出店してる物から色々だ。
金魚や輪投げの屋台に混じって骨董の店や野菜を売る店、魚の干物や貝焼き、コロッケや牛串を売る店まで本当に様々だ。
「すごいね〜いっぱい!」
はしゃぐのはやっぱりちび組。親父と母ちゃんがしっかり付いていく。
「みんな、はぐれたら携帯で連絡だ、気をつけてな」
今は便利だよな。昔なら二度と会えない人混みだ。
「俺達も色々廻るか」
そう言って拓海達を見る。と、拓海の視線がある露店にじーっと向いていた。
「ん?」
「あの店、俺の先輩達だ」
見ると大根やらきゅうりやらトマトやらピーマンやら。大物はスイカにかぼちゃとか、夏野菜がてんこ盛りになった露店で、更に活きの良さそうな兄ちゃん達が三人。威勢の良い呼び込みで野菜を売っていた。
「えーラッシャイラッシャイ!産直の活きのいい野菜だよ!」
「早く来ないと無くなっちゃよー!!」
「まとめ買いには更にオマケありまーす!!」
おぉ、ホントに活きのいい兄ちゃん達だ。これが拓海の先輩達か?この暑い最中にタオルのハチマキまでして元気に売り子だ。
「あー!!拓海ぃ!!」
その活きのいい大根を振り回して売り込みをしていたうちの一人が拓海に気が付く。
「えっ!?拓海くん!?あ〜美音ちゃん!!」
もうひとりのナスを持ってる兄ちゃんも気がついた。そっちは美音も知っているらしい。
「田代先輩、亮さん」
拓海が笑顔で呼び掛けに応える。大根が田代でナスが亮って子か。
「拓海?大阪から帰ったのか!お帰り!!」
「はい、中崎先輩!」
スイカが中崎っと。
美音も拓海に掴まったまま亮に挨拶している。
「拓海、その方は?」
田代という子が俺を見た。みんな陽に焼けた子たちばかりでその中でもひときわ背が高い。拓海や俺と並ぶな。
「俺の兄貴です、昂輝と言います。こっちは姉で夏那、こっちは妹で美音」
美音を知らない連中もいるんだ。
「こんちわ、拓海のお兄さんお姉さん妹さん」
まとめて三人が挨拶をしてくれた。俺達も笑顔で会釈する。
「先輩たち、バイトですか?」
「おう、亮のおやっさんに頼まれた農協の出店。なかなかブラックだぞ、この炎天下に歩合制だ」
田代が答えた。なるほど、そりゃ必死になるわ。
「昂輝、俺、ばあちゃんを探してくる。ここで待ってて」
「おう」
美音を置いて拓海が動く。活きのいい野菜だ。ばあちゃんなら沢山買うよな。
「え、と。田代くんと亮くんと中崎くんだね。いつも弟がお世話になってて、本当にありがとう」
俺が改めて三人に頭を下げた。
あの拓海の笑顔を見たら、拓海がこの連中をかなり好いてることは明らかだ。とっつき難いとよく言われてる俺の弟だから、あんな表情が見られて良かったな。これが例の先輩達か。
「いいえ!拓海がいいやつなんです!俺たちの方こそいっぱい助けてもらってます!!」
「そうそう、田植えとか草取りとか収穫とか、拓海は何をやっても真面目だし一切手を抜いたりしないし。うちのじいちゃんばあちゃんも拓海のファンなんです」
「農家出身でないのにあの農作に対する情熱はホント、お前も見習えってうちの親父が言うくらいですよ」
こぞって話をしてくれる先輩くん達。良かった、やっぱり俺の弟はちゃんと居場所を見つけている。
「美音、良かったね」
こうやって拓海の様子が分かるのはありがたいよな。夏那の言葉に美音も嬉しそうに頷く。
「拓海くんは兄弟が多いんですよね、前に聞いた事があります」
亮と言う子だ、ちょっと美音ばかり見ているな。
「以前うちの親戚のいちご農園に来てくれた事があって、あの時は美音ちゃんと弟くん達が一緒でした。その時に自慢のお兄さんとお姉さんもいると聞いていました。お会い出来て嬉しいです」
「そうなんだ」
俺達も拓海の自慢か。ちょっと照れるな、その言葉を忘れないようにしなきゃ。
「あ、拓海」
ばあちゃんを連れた拓海が戻って来た。美音がいち早く気が付く。
「あらまぁ、いいお野菜がいっぱいね!」
ばあちゃんが野菜を見てくれる。直ぐ側にはちゃんとじいちゃんだ。
「え?ばあちゃんって…母ちゃんじゃないの!?若いっ!!超キレイっ!!」
「おじいちゃんが超かっこいいんだけど!?外国の俳優!?」
美魔女ばあちゃんと金髪碧眼紳士のじいちゃんだ、初めて見た人間はそうなるよな。田代という子以外はびっくりしている。
「あとで車まで運んでくれるかしら」
「はい、喜んでっ!!」
家族もこんだけ人数いるから大丈夫と思うけど。でも兄ちゃん達もやる気十分。
ばあちゃんは大阪の分も大量に買い込み始める。
その様子を見ていた他の客も次第に集まって来た。店が賑わい始める。
「はい、イラッシャイ!!」
兄ちゃん達も大忙しになった。
しばらくその様子を見ていたが、うちの分の大量の買い物の品を店の後方にまとめた拓海が戻ってくる。
「あとで取りに来ればいいよ、みんな他を廻ってくれ」
ばあちゃんも支払いを終えてじいちゃんと店を離れた。相変わらずあの美魔女ぶりが人目を集めているけど。
「ああ、じゃ行くか」
また4人で歩き始める。前方を行く拓海が美音に手を繋ぐように促すと、喜んでその手を取る美音だ。
夏那と顔を見合わしフフっと笑う。
しばらく進むと、射的場で品物を総ナメしている親父に出会った。どうやらちび達に何かねだられたらしい。
気の毒な店の人と、両手に景品の入った大袋で大喜びのちび達だ。勿論少々慌て気味で、でも嬉しそうにそれを見ているひかりを抱っこの母ちゃんもいる。
相変わらずだわ。
「あ、美音ちゃん!!」
ん?その人混みから俺の妹を呼ぶ声?
「わぁ深雪ちゃん!来てたんだ?」
振り返る美音が、これまた美音とそっくりなサイズ感のピンクの浴衣を着た女の子と嬉しそうに話をしている。こっちも友達か?
「うん、家族と来てるの。こんにちは拓海さん」
拓海の事も知ってるんだ、じゃあ親しい子かな。良かった、美音の友達なんて初めて会うな。
「深雪ちゃん、前に話したうちのお姉ちゃんともうひとりのお兄ちゃんも来てるの!夏休みで家族がこっちに帰って来てるんだ」
お、俺たちにも紹介してくれるのかな、美音が俺たちを見ている。
「わぁ良かったね!こんにちは初めまして。椎名深雪です、美音ちゃんのクラスメートで同じ部活なんです。お会い出来て嬉しいです」
「こんにちは、姉の夏那です。深雪ちゃんね、お話は美音から聞いてます、妹がお世話になってます」
夏那は知ってるのか。そういや美音からよくメールが来るって嬉しそうに言っていたな。にこにこしてて元気な子だ。俺と夏那の前でぴょこんとお辞儀をしてくれる。
「兄の昂輝です、深雪ちゃん初めまして」
しかし見れば見るほど美音と雰囲気が似てる、美音がよく笑うようになったから余計に。
「美音ちゃん課題は終わった?私は一枚丸々残ってる〜」
「うん、私もまだ。仕上げが残ってるわ」
学校の宿題か、美術系だって言ってたもんな。
二人で情報交換をしてすぐに別れた。別れ際も笑顔で手を振ってる深雪だった。
すかさず美音がまた、拓海と手を繋いで歩き出す。
「昂輝」
「ああ、なんか安心するな」
拓海と美音の今の生活が垣間見えた。ちゃんとそれぞれに上手くやっている。
特に美音が心配だった。
俺は美音がやっと話せるようになった姿しか覚えて無かったし。いくら拓海が一緒に暮らせていても、学校は違うというからそれが気掛かりで。
でも大丈夫だったな、俺の弟も妹もちゃんと強くなっている。
「昂輝、あっちにいこう」
自然に拓海達と離れていた。夏那が俺の腕を引く。
「ああ」
俺は夏那と二人だけで歩き出した。
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