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店に戻ると今度はそこに親父とちび組が到着していた。野菜は結構売れたらしく、店の後ろにあるのは我が家の購入分だけだ。
店が暇になった分、兄ちゃん達が真也と遊んでくれていた。肩車で広場を走り廻ったりしている、体力あるな。
そういや拓海は…あ、いた。亮って子と話をしている。いや、話してるのは拓海に引っ付いてる美音とか。
さっきも美音の方をずっと見てたもんな、あの亮くん。
美音に惚れてるのか?でも、拓海と美音が普通の兄妹だと思ってるのだとしたらちょっとヤバいな。
可哀想なことになるかも。
「拓海、美音」
微妙に困った様な顔の二人に夏那が声を掛けた。
「夏那姉ちゃん、昂兄ちゃん」
ホッとしたような声で美音が応える。
「お野菜運ぶわよ、二人とも来て」
「はぁい」
美音は夏那に付いていった。
「じゃあ亮さん、又学校で」
「ああ、俺は店番してるから歩達を呼ぶといいよ。歩ー!ナカー!!」
離れて真也と遊んでくれている田代達が呼ばれた。真也を肩車したままの田代と中崎が来てくれる。野菜を運び始めた俺達を見て、真也を肩から下ろして一緒に運び始めた。
「僕も!」
「よーし、真ちゃんはトマトな!」
「僕ね、大阪でトマト作ってるんだよ!きゅうりもナスも!」
「え、本当か?じゃあ真ちゃんも兄ちゃん達の仲間だな!!」
田代に仲間と言われ、嬉しそうに真也がトマトを運んでいく。
「弟、可愛いな。俺は姉貴しかいないから兄弟がいっぱいなのはうらやましいよ」
俺のちょっと先を行く二人の会話が聞こえて来る。田代にそう言われ、大根を束にした物を背負った拓海が嬉しそうに頷く。
「あいつは生まれながらの緑の指なんです。この前大阪の家に帰ったら、うちの庭に毎年みたいな夏野菜が豊作になっていました。俺は大したことを全然教えてなかったのに、真也があの小さい手で一生懸命畑を作っていたんです」
「真ちゃんって、まだ小2なんだろ?」
「はい、だから緑の指って本当にいるんだなって」
幼い美音と拓海に、夏那がよく読んであげていたあの童話か?
どんな花も作物もとても上手に育てられる少年を探す少女の物語。病気の母親を治す事の出来る、貴重な薬草の種を芽吹かせる為にその少年を探すのだ
あれ確か母ちゃんの絵本だよな。ほんでその少女のモデルが夏那で、少年の方が俺だ。俺も夏那も夏休みの朝顔くらいしか育てたことは無いけど、あの時の読み聞かせが今の拓海を作ったのではないかと密かに…違うか(笑)
「緑の指ってうちの姉ちゃんもよく言ってたな。うちはじいちゃんがそうなんだ。こんな北国のうちの温室でマンゴー作っちまった」
「マジですか!?」
「うん、さすがに今は自家用で量産は無理だけど。結構甘い」
「凄いなぁ」
「俺の代で量産出来たら喰わせてやるよ、北限マンゴーとかって名前で売りたい」
「はい、是非」
凄えな、次世代農業青年たち。マンゴーなんてもっと南の作物だよな。こういう物をどこでも栽培出来るようになる為の勉強も拓海達はしているんだ。
「あ、拓海。前にも言ったけど早めに園芸部に入ってた方が良いぞ。2年になったらバイオの授業が始まるから、追いつけなくなった連中が押し掛けてくる。その前に入っとけ」
「あ、はい」
ん?
「部長の俺としては、ただ進学用に入ってくる連中よりもお前に色々と教えてやりたい。もうすぐ3年は引退だけど、進学組以外はまだ部活をしてるからな。家族が来てるなら丁度いいから相談してみろよ」
「はい」
田代は園芸部の部長か。さっき見てただけでも結構拓海を可愛がってくれてるのも分かる。
歯切れが悪い返事の理由は美音か。なんか分かるかも…
「あ、すまんな。野菜を運んでくれてるのか」
そこに凪紗を抱っこした親父がやって来た。あれ凪紗、足をどうしたんだ?足首に包帯だ。俺は歩く速度を落とした。拓海達が離れて行く。
「凪紗、足?」
「不慣れな浴衣と下駄で転んだんだ、はしゃいでたからな。救護所で湿布をしてもらった」
ちょっとしゅんとしてるけど親父の抱っこは嬉しそうな凪紗だ。
「母ちゃんとひかりは?」
「ひかりが寝ちまったから先に父さんの車に。暑いからな」
なるほど、親父は先輩くん達と話をしたのかな。
「拓海の先輩達に会った?」
「ああ、挨拶はした」
その反応が見たかったかも。
「親父、あとでちょっと話があるんだ」
「うん?」
さっきの田代と拓海のやり取りをちょっと耳に入れておこう。
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