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帰宅すると、にゃん太は思い切り大の字になってケージでのんびりお昼寝中だった。珍しく静かなにゃん太ハウスは気に入ったらしい。
「もうちょっと寝かせておきましょうね」
そう言いながらばあちゃんがケージのドアだけ開けているのが見えた。母ちゃん達がちび達を連れて家に入って行く。
ばあちゃんから古新聞の束を受け取った拓海と俺が、両方の車に積んであった大量の野菜を物置の前に降ろす。
拓海に習いながら新聞で野菜を包んだ。それを次々物置に運んでいく。親父たちも明日の夜には大阪に帰って行くから、ここから出せば良い。
「よし、これで全部だな」
「ああ」
手を洗おうと工事中の敷地の方に廻る。敷地に置かれたハイエースの側に父ちゃんとじいちゃんがいた。
「お疲れ様、拓海、昂輝。拓海の先輩達は面白い子達だったね」
じいちゃんに言われて拓海が笑う。いい笑顔だ。
「拓海、お前なんで部活をしないんだ?あの先輩達に誘われているんだろ」
え?という戸惑った顔の拓海だった。ちょうどここに父ちゃんもいるし、聞いてみるか。
「あの田代って子はお前に色々教えたいって言ってたな。良い奴みたいじゃん」
「うん、田代先輩は特に気に掛けてくれる。自分ちは専業の稲作農家なんだけど、これからはもっと総合的で天候に左右されない大規模農業って考えを持った人だ。大学にも行くって言ってた」
それはかなりしっかりしたビジョンを持った子だな。
「田代先輩は将来的に自分の仲間とそういう事業を起こしたいんだって。だから俺にも今から勉強の出来る機会を絶対無駄にするなって言ってくれている。園芸部の顧問はバイオで有名な中川祐介先生だから」
「田代くんが部長なんだろ?その人が誘ってくれてるなら行けばいいのに」
「最近まで迷っていたんだ、でも二学期から行く。美音があんなにいい絵を描くようになったから、モタモタしてたら俺のほうが置いてきぼりだ」
やっぱり、美音が心配だから部活をやってなかったんだ。
「拓海は美音が学校から帰って来たら、家でお帰りを言ってあげたかったんだよね」
じいちゃんはちゃんと知っていたね。
「でも家には必ず私か薔子がいつも拓海達を待っているよ。安心して良いんだからね」
「うん、じいちゃん」
そのやり取りを見ていた親父が、黙って拓海の肩に手を置いた。
「ありがとうな拓海、父さんも」
それに無言で頷くじいちゃんと拓海だ。
出る幕は無いな。大丈夫、この家族はいつだって互いを想い合ってる。
俺の大事な家族は、いつだって大丈夫だ。
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