君の降る道

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最近やたらと夕立に遭うのは、何か意味があるのではないかと思い始めた。 二の腕に触れる温度が少し下がり、帰り道が間延びするような夕暮れどき。家路へ急ごうと自転車を漕ぐと、唐突に雨が降り出すのだ。 あんまり頻繁なので、雨雲が私を追いかけているのではないかと考えた。 物は試しと、ビーカーをいくつか用意して雨を採取した。 顕微鏡で雨粒の記憶をそっと覗いてみる。 ようく目を凝らして見えたのは、君と私が並んで歩いている姿だった。 なんとこの雨粒は去年の冬、私達に降り注いだ雪だったのだ。 まさかと思い、他の雨粒も覗く。 君がはしゃいでいる波打ち際がある。魚を釣りに行ったきらめく夏の川も見えた。 君が2人の思い出を降らせていることにようやく気がついた。思えば雨が降り出すのは、決まって散歩で通った道にいるときだった。 熱く込み上げる想いを喉元で抑えながら、何度も何度も雨粒を覗いた。 思い出を十分に堪能したので、雨を空に還すことにした。 「忘れないよ。」 と呟くと、目尻から頬を伝う雨粒も一緒に空へ舞い上がった。 その瞬間、眩しい太陽がひょこっと顔を出し、にかっと笑った。最後の雨粒が陽射しに反射して、小さな虹がかかった。 君の笑顔を久しぶりに見た気がした。
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