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 六番目に生まれた子供なので六花(りか)と名づけられた。  齢十歳になった六花は、川縁(かわべり)のぼろ小屋で病弱な父“巳之吉(みのきち)”と六歳の七郎、四歳の九郎、三歳の十花(とうか)と暮らしていた。六花の兄姉たちはみな小さな頃に病で命を落とし、母は末っ娘の十花が生まれた吹雪の夜に、忽然と姿を消した。  六花は生まれたときから不思議な子だった。幼子の六花が泣くと、きまって空から雪が降った。五つになる頃には、掌に雪片を浮かべさせるようになり、八つの頃には自在に雪を降らせるようになった。  六花は、その力のことを誰にも話してはいけないという父との約束を守りながら、日々、町で薪を売り歩いて小銭を稼いだ。毎日の生活は貧しさを極め、小さな弟妹たちと病弱な父を養うためには、六花が汗水たらすより他がなかった。  六花には同じ年頃の友もいなけりゃ、遊んでいる暇もない。町の子供たちの暮らしをたいそう羨やんだが、自分とは住む世界が違うのだと自身に言い聞かせていた。  住む世界が違うとはいえ、近所なのだから気にはなる。六花は町の子供たちの噂話をよく、薪売り仲間たちや町内の大人たちから聞き集めた。どうやらここら一帯の子供たちをまとめあげているのは、老舗の織物商家で名の知れた青砥屋のひとり息子。梅之助という悪童なのだという。  千両役者みたいな名をしておいてやっぱり悪童だなんて、こいつはお笑い草だと六花は鼻で笑った。しかし相手は腐っても青砥屋の総領息子。川っぺりで明日食べるものにすら困っている貧乏人とはまさに住む世界が違う。六花はこの世の不公平を呪うしかなかった。  そんな梅之助と六花が知り合うことになったは、安政の世になってからすぐのこと。冬にもかかわらずやけに暖かい日が続いていたある日のことだった。  いっこうに薪が売れず銭が稼げないことに焦りを感じた六花はある妙案を思いついた。  いっそのこと空を雪に変えてしまえばいいんだ! 町の人らも寒くなって薪を買い漁るに違いない。  六花はさっそく八幡神社まで小走りで向かい、境内の裏に生えた大木の影に隠れる。空にむかって手をかざし目を閉じて、雪よ降れと念じる。  空はみるみるうちに曇天となり大粒の牡丹雪が降り始めた。町人たちがびっくり仰天している様を想像すると少しおかしくて笑ってしまう。 「ふふ、これで薪を買ってもらえるわ」
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