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生死のなかの絶えず雪ふりしきるさまを見て、人はなにを思うのだろう。「いい人生だった」とか「生まれ変わってもまた自分でありたい」とか思うのだろうか。
まったく愚かしい。人の命に意味などない。人生に理由を求めるだなんて、本当に浅ましい。
六花はかき氷機のペダルを踏みながら、そんなことをぼんやりと考えていた。
シャリシャリという音とともに手元のガラス皿に粉雪がふりしきる。皿いっぱいになったところで、青いシロップをたっぷりかける。
シロップで氷がみじめにしぼんでいくさまは、まさに人の生涯のよう。生きた軌跡や思い出といったくだらないものが水泡に帰す瞬間。六花は、このシロップをかける瞬間がちょっと好きだ。儚くて、ちょっぴりかわいい。
青く平らかになった氷をもう一度セットし、ペダルを踏む。降る雪はすぐに青を覆い隠していく。まるで何事もなかったかのように平然と、淡々と──。
六花はこのかき氷店「六花堂」の店主だが、いわゆる人間ではない。
いや、もとは人間だった。およそ百七十年ほど昔のこと。ひょんなことから六花は人間を辞め、あやかしの類となった。江戸の世に生まれたこの半妖の雪女は、10年ほど前にこの街にふらっと現れ、暇つぶし程度にかき氷店を営んでいる。
雪模様の描かれた藍染めエプロンはお気に入り。ポケットからハンカチを取り出し額の汗を拭う。8月に入りいっそう暑さの厳しい日が続く。窓の外からは蝉の大きな鳴き声が聞こえてくる。こんな日は冷たいかき氷を求めてたくさんの客がやってくる。
もう一度青のシロップをかけ、最後に練乳をぐるぐる巻きにして仕上げる。六花堂特製ブルーハワイの完成だ。お盆にかき氷とスプーンを乗せたところで、入口の自動ドアが開く音がした。涼しげな風鈴の音とともに、蝉の鳴き声のボリュームが上がる。
「いらっしゃい」
元気な声で入口に目を向けると、そこに立っていたのは小学生くらいの男の子。眉をへの字に曲げてまっすぐに六花を睨んでいる。六花は優しく微笑み、その小さなお客さんにもう一度「いらっしゃいませ」を言う。
「あんた、妖怪だろ」
「……はい?」
少年の唐突な言葉にきょとんとする六花。
「人間じゃないだろ」
「……あのね、きみ」
「僕にはわかるんだ」
「いけませんよ。大人のお姉さんにむかってそんな失礼なこと」
「大人じゃない。妖怪だ」
「……お姉さん、本気で怒りますよ」
子どもというのは、ときに妙に勘の冴え渡ることを口にしたりする。六花は妖怪という言葉を突然耳にして少しドキッとした。しかし、そのあとはふつふつと怒りが湧いてきた。真実がどうであれ女性を妖怪呼ばわりしていいものではない。
「きみ、あやまりなさい」
「嫌だ、妖怪なんかに謝るか!」
「なんですって」
こうして半妖の雪女“六花”と、やんちゃな少年“悟”は出会った。
──これは、数奇な運命に翻弄された“あやかし”と“人間”の物語である。
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