織原 ゆづか ④

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織原 ゆづか ④

 京子と真奈美に改めて礼を述べ、ゆづかはマンションに帰って来た。その時にきちんとおめでとうを伝えられたことで、スッキリしたような気になるのは身勝手そのものだろうか。次、集まるのは式の時だろう。その時も精一杯のおめでとうを伝えるんだ。彼女は決心した。  そして鍵を取り出そうと鞄を開けたとき、小瓶が目に入った。京子が起きてきてろくに見ないまま鞄に戻したのだが何なのだろうか? ゆづかは昔、勝手に種が送りつけられるという事件があちこちで起きたことを思い出す。そうなると何か面倒事に巻き込まれるのも嫌なので、メモに残された電話番号にかけて聞いてみることにした。  プルルルル……プルルルル……プルルルル……。コール音だけがこだまする。もう十時になるが日曜日なので寝ているのだろうか? それともバイトか何かだろうか。また改めて掛け直すかと思っていたその時、相手の声が聞こえてきた。鳥海と名乗ったその声は、紛れもなく昨日ぶつかったあの女の子だ。  ゆづかは彼女に種のことを聞いてみることにした。対して、彼女の返答はいまいちわからないものである。あなたに必要なものが芽吹きます……そう言われてしまったが、生憎私は植物の類いは小学生の時のアサガオくらいしか育てたこともないし、そもそも現在花や植物は必要としていない。そう言うと電話口の彼女はメモを取るように促してきた。どうやらこの種の植物の育て方らしい。よくわからないが本人曰く、決して怪しい植物ではないらしいので育ててみることにした。私も何かを変えなきゃいけない。そんな想いがあったのだろう。  ゆづかは言われた通りに種の世話をした。仕事も相変わらず張り切ったし、容姿に気を使うのも相変わらずだ。しかし、周囲の人間は皆口を揃えて雰囲気が丸くなったと言う。  やがて、真奈美から結婚式の招待状が届いた。それと同時に京子と二人でのスピーチの依頼もされたが、これ幸い、ここで精一杯祝福の言葉を伝えようとゆづかは引き受けた。  同窓会から一年近く経ち、またもや暑い日々が訪れ行き交う人達の肌を焼いていく。そんな中、大切な友人の門出の日が来たことがどこか嬉しくどこか悲しく、それでも精一杯祝うことを決めた。ゆづかは鞄に二つの押し花をそっと入れ、部屋を出る。  一つは大切な友人へ捧げるツルニチニチソウ、もう一つは……一年経ちさらに頭頂部が目立つようになったであろう人へ贈る桔梗の押し花を忍ばせて。
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