6

1/1
前へ
/19ページ
次へ

6

 ざーっと、 未だ弱まらない雨の音を聞きながら、 僕は鈴についた汚れを落としていた。  水で流しながらよく擦った。  すっかり埃を被って古びてしまった その鈴が綺麗になるにつれて、 あの時の高揚が 心に戻ってくるような心持ちだった。  綺麗だったこの鈴の音を 思い出しながら無心で洗っているうちに、 汚れが落ち、 鈴はかつての輝きを取り戻し始めた。  タオルで拭き、 光に当てるとその鈴は 誇らしげに金色の光を讃えた。  僕はその様子に満足し、 改めて鈴を振ってみた。  相も変わらず 鈍い音しか出なかったが、 僕にはそれでも良いように思えた。  雨の様子を見に行きがてら、 僕は玄関に向かった。  鍵フックにその鈴をかけ、 ドアを開けた。  夏の熱と雨の湿気の むわっとした空気が皮膚を撫でた。  雨はまだ止まない。  雨垂れが地面にぶつかり、 激しい音を立てている。  僕はドアを閉め、 部屋へと戻った。  「かくれんぼ」の続き。  ここからは匂いに頼らずともはっきりと思い出せる。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加