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「そろそろ私戻らなきゃ」  そう言った彼女は 変わらず笑顔ではあったが、 発する声はどこか切なげだった。  胸に痛みが走る。  それと同時に傷を思い出し、 じんじんと走る刺激を体が受け入れ始めた。 「私を見つけてくれてありがとう」  そう彼女が言った刹那、 少し離れたところから犬の鳴き声が聞こえた。  僕は振り向き、 そこに佐原さんとチビの姿を認めた。  彼らも僕と同じように 泥まみれになり息を切らして走っていた。  彼女とはもうお別れだ。  お礼を言わないと。  僕はもう一度振り向き、 挨拶をしようとした。 「今日はありが......」  そこに彼女の姿はなかった。  その代わりに、 石は彼女が座っていたところが 濡れておらず白くなっていた。  その中心にはあの鈴。 あまりにも突然のお別れに 僕の心はそこに置き去りになった。  ばしゃばしゃと音が近づいて来た。  佐原さんが駆け寄る勢いのまま 僕を強く抱きしめる。  彼の肩の動きと鼓動、 涙を啜る音が 今までにない近さで感じられた。  佐原さんのその感情が 体を伝って僕に伝染した。  一方でどこか他人事のような、 映画を見ているような 客観的な自分がそれを見つめていた。  頬を雨ではない温かな水が伝うのを感じた。  今度は置き去りではない、 僕はしっかりと登場人物としてそこに存在していた。  ふと空を見上げると、雨は止んでいた。
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