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 雨は、止んでいた。  その代わりに降るのは眩しくも優しく、 包む様に優しい橙の光。  雨の中で忘れかけた昼の温度、 その名残りが僕の体を照らした。  僕は目を細め、その光の源を見出す。  大きな夕陽。  それを飾る白い彼岸花が風に揺れていた。 その緩やかな動きと影が 景色に命を与えていた。  生きているかのような その切り取った一瞬は、 まさに映画のラストシーンだった。  先程の激しい雨の水溜りが、 その景色を映し出すカメラの様に 忙しなく白い光を放ち続けている。  入道雲の残りかすのような 千切れた雲が空を舞っている。  夏だ。  夏がまだそこにあった。  扇風機を片付けるのはまだ早いのかもしれない。  せめてこの夏が終わってしまうまでは そのままにしておこう。  僕は、そう思った。
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