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 そんな混乱した僕を 追い詰める様に、 その男性が改めて 挨拶にやってきた。  彼は幼い僕に 対して全く不釣り合いな 恭しさで挨拶をした。  いくつかの言葉を 僕にかけたが、 それは妙に 他人事のような空気を持った台詞で、 僕の耳を素通りしていった。  「佐原」という 彼の苗字だけを 僕は記憶した。  僕の苗字も、 いづれ「佐原」になるのかもしれない と思うと何となくやるせなかった。  名前だけが別のものになり、 僕本人だけが 取り残されてしまう様な 感覚だった。  彼は靴を脱ぎ、 嬉しそうに中へと案内する母と 楽しく話し始めた。  そんなふたりの後ろ姿を、 僕は客になり映画のラストシーンを 見るような、 置き去りにされるような 感覚を味わいながら ただ眺めていた。  
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