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 しばらくして、 母が新しい父親となる男性に対する 僕の反発を 見抜いたのかこんな提案をした。 「ユウちゃん、 お父さんと一緒に チビの散歩に行って来てよ」  チビは、 その時飼っていた柴犬だ。  親戚の家の 犬の子供が生まれた時に、 他の赤ちゃんと比べ 小さかったのを母が気に入り、 譲り受けたのだ。  亡くなってしまった父にしか 使わなかった 「お父さん」という言葉を、 母が別の男性に使ったことに 僕は強いショックを受けた。  過去の一部が 丸々すげかわってしまったような 虚無感が、 僕の心に黒い染みを 残したような気がした。  しかし言葉で反発するのは どうしても躊躇われた。  他人の僕が口出しをするのは おかしいのではないか、 という鬱屈した配慮がそこにはあった。  まだ幼く、弱い僕は その不満を態度として示そうと 試みていた。  しかしそんな試みも 意味をなさず、 僕と佐原さんふたりで チビの散歩に行くことになった。  
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