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竹林の中を
無我夢中で走り回った僕は
息を切らしその場にへたりこんだ。
佐原さんとは
だいぶ距離を離したはずだ。
もうどうなっても良いという
投げやりな気持ちと、
再婚に対する複雑な感情が
ぐちゃぐちゃに混ざり合い
涙が出そうになった。
そんな気持ちを代弁したのか、
せきを切った様に
激しく雨が降り始めた。
空を見上げると
竹の葉の向こう側に
青く灰色な空が広がっていた。
入道雲は高くそびえていた。
強い雨が竹を打つ音が辺りを囲む。
それ以外に
何も聞こえなくなったことで
もたらされた閉塞感に、
僕は不思議と安堵を覚えた。
しばらくの間
そこに体育座りの格好で
俯いていると、
背後で突然鈴の音がした。
僕はもう見つかったのかと
焦りながら振り向いた。
しかし僕の予想を裏切り、
そこにいたのは
同じ年頃の少女だった。
赤い生地に
煌びやかな装飾が
あしらわれた着物を纏っており、
帯にはひとつ鈴をつけていた。
雨に濡れるのも
全く気にしない素振りで
そこに立っていた。
上品さと、
幼さからくる愛らしさのある
立ち姿だった。
少女はにこりと純粋な笑顔を浮かべ
「こんなところに座って何してるの?」
と、僕に聞いた。
新しい遊びをしている友達に
接するかのような
そのあっけらかんとした態度に、
僕の心は少しだけ安らいだ。
あまりにも
現実味のないこの状況に、
僕の心に渦巻く黒いものが
洗い流されていくような気持ちだった。
体がすっかり脱力し、
力が入らずぼうっとしていると
少女は続けた。
「ねえ、
あなたもひとりなら私と遊ぼう!」
僕は何も言わず頷き、立ち上がった。
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