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   透明なガラスコップの中の氷が、 音を立て溶けた。 それと同時に コップに並ぶ水滴が 繋がって垂れ、 古ぼけた机を濡らす。  だらだらと 流しているだけのテレビが 緩やかな気温の低下を 僕に伝え、 隣に並ぶ扇風機は 首をもたげて眠っていた。  僕は目線で その扇風機のコードを ぼんやりと追いかけていた。 コンセントには繋がれていない。  昼と夕刻の間ほどの 切なくまだ青い日差しが 僕の足と その先のプラグだけを照らしている。  濡れたコップを右手で掴み、 僕は水をひと口ほど啜った。  夏ももうじき終わる。  扇風機もお役御免だ、 片付けなければならない。  膝をパキパキと鳴らしながら 僕は重い腰を上げた。  伸びをすると 体中の凝り固まった部分が 音を上げながらリラックスし、 現実味を帯びた重さを掴んだ。  突然の動きに 驚いた心臓が 僅かに心拍数を上げる。  軽く深呼吸をし、 体を落ち着かせた。 止まった時間の中で 自分だけが生きているかのようだった。
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