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第四話★
遠慮がちに近づく彼の手に頬を寄せ、小さく笑みをこぼして目を閉じる。
まずはキス、なのかな。キスしながら服を脱がせていく。お決まりのパターンかもしれないが変に違った事をして雰囲気をぶち壊すよりは全然いい。
当然されると思っていたキスはされず、かけていた眼鏡と共に彼の手は俺から離れた。
「かけたままだと濡れちゃいますから」
驚く俺に、いたって真面目な顔で彼はそう告げた。気にする所はそこなのか。
続いてネクタイをほどき、まるで子供の風呂の準備でもするようにシャツのボタンを外していく。
「見えにくいですか?」
苛立ちを含んだ俺の視線を視力が悪いせいだと解釈したようだ。
見えにくいのは君の行動だよ誠司君。
「いや、そこまで悪くないよ。それに……近づけば見えるからね」
どうにか雰囲気を取り戻そうと、彼に顔を寄せて誘うように微笑んだ。
「あ……良かったです」
何が良かったのかわからないが、耳まで赤くした彼は先を急ぐようにシャツをスラックスから引き抜こうとした。そして、何かに気づいたように手を止めた。
ああ、そうだ。今日は会社から直行したから着替えてないんだっけ。無理やり引っ張られたりしたら、困るのは俺の方だ。
「こっちから」
もう一度試みようとシャツをつかんだ彼の手を取り、ベルトのバックルへ誘導した。
彼は何か勘違いしたらしく、深く息を吸ってゆっくり膝をつくと、命令に従う忠犬みたいに俺のスラックスの前を開いていった。
ファスナーが下ろされ、スラックスが床に落ちた瞬間、再び彼の動きが止まる。
「あの、これ……」
困惑した顔で、彼は俺を見上げた。大腿部を一周する黒いベルト。そこから上方向に細いベルトが3本のびている。
「知らない?」
まだスーツを着る機会もあまりないのだろう。知らないのも無理はない。でもだからって、ここで社会人の先輩みたいな顔でシャツガーターの説明をするのは、さすがにと興醒めというものだ。
「外してくれる?」
俺は自ら後方にあったベッドの上に座り、ガーターベルトを見せつけるように軽く股を開いた。
どうする?誠司君。
彼は膝をついたままこちらを見つめていたが、すぐに意を決したように立ち上がった。
「失礼します」
ベッドに上がるにはやや違和感のある挨拶をして、正座するみたいに俺の足先の向こうに座る。そして、腰を浮かせて俺の右の太腿に手を伸ばすと、なかなかに器用な手つきでシャツにつながったクリップを開いていった。
男っぽい長い指が小さなフックを捩じるように回すと、俺の太腿に巻き付いていた黒いベルトが静かにシーツの上に落ち、ふっと圧迫感から解放された。その時だ。
「ん!……あっ」
生温かくやわらかなものが、内腿の上を這った。
「誠二く……っ!?」
ほんのりと残ったベルトの痕に沿って、彼が舌を走らせたのだ。
「ここ、ピンク色で……すごく、きれいです」
くるりと一周する赤い線の上を、少しずつずらすように口づけていく。
独り言のように呟き、確かめるように腿を滑る唇は、時に強く音を立てて吸いついた
彼の唇が吸いつく度ぴりっと痛みが走る。そんな些細な痛みさえ身体は悦んだ。
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