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「先生っ!西野先生ってば、待ってよっ!!」 新学期早々・・・俺を悩ます声。 毎日、毎日・・・懲りもせず俺を呼ぶ声。 放課後・・・渡り廊下を歩く俺の背中を追いかけて来てはかけられる声。 「西野先生、聞こえてるんだろ?」 やっと追いついたのか隣に並んだ日本人離れした顔のこいつ。 この春、こいつのクラス担任になり出席を取りながら 初めてこいつの顔を間近で見た時はハーフか?と思ったくらいだ。 だが・・・ 隣のクラスにいる双子の片割れを見れば和風な顔立ちで お前ら本当に双子なのか?って今度は訊きたくなった。 こいつには昨年、バスケ部特待生として入学した兄もいるが そいつとも・・・似ていない。 日本人には珍しいくっきりといた二重のアーモンドアイ。 その瞳の色と輝きはどこか懐かしくて。 いや・・・ 懐かしいんじゃないな。 思い出したくない・・・になるか。 そう・・・ 俺にとっちゃ、もう・・・ 何年も鍵掛けて、蓋閉めて・・・ 心の奥に仕舞い込んだ・・・ そんな瞳の輝き。 それなのに何をこいつは血迷ったのか 「俺、西野先生に惚れた!」 入学式当日に告白してきやがった。 この学園は所謂進学校ってヤツで 俺が受け持つ美術なんて授業は ここに通う奴等にとっちゃお遊びみたいなもんだ。 単位が関係なけりゃ・・・ 大学受験の為に他の科目を勉強したいが奴等の本音だろう。 一応名ばかりの美術部も存在はしてるがその殆どが幽霊部員。 元来、面倒なことが苦手な俺にはそれが好都合で 私学の割には給料の安いこの学園でも なんとなく辛抱できてたのはそのせいもあったのに・・・ こいつのクラス担任になったのが不幸の始まりだったのか 美術部にまで俺を追いかけるように入部してきて。 自由時間みたいだった俺の放課後が・・・ こいつのせいで台無しになっちまった。 だが・・・ それより、もっと厄介な問題が・・・ それは・・・ こいつの名前だ。 櫻川 脩 櫻川・・・ 俺が鍵掛けて、蓋閉めて、心に仕舞い込んだ・・・ そう・・・ 思い出したくない奴と同じ名前。 櫻川・・・ その名前が・・・ 俺の心をざわつかせる。 「俺さ・・・やっぱ真くんのこと、もう抱けねぇや」 あれは夏休みだったっけ? やたら五月蝿い蝉の鳴き声と 汗で肌に張り付いたシャツが気持ち悪くて。 『シャワーでも浴びる?』なんて理由で 真昼間からラブホに連れ込まれて言われた言葉。 『真くんが自分でヤってること見せて』ってせがまれて・・・ 嫌々ながらも自分のモノを取り出し まだ柔らかなモノを上下に扱き 恐る恐る後ろにも指を突っ込み 次第に反応し始めた俺のモノが反り返りだして・・・ 好きでたまらない奴に視姦されてるこの行為に 恥じらいも抵抗もなくなった頃 自分の右手で与える刺激と 好きでたまらない奴から注がれる熱い視線に溺れ 頭の中が白くなって・・・ 『んっ・・・』と吐息を一つ吐いた時だ。 「俺さ・・・やっぱ真くんのこと、もう抱けねぇや」 そう・・・ まるで・・・ 今まで俺を抱いていたことが不思議だったみたいに 何かの間違いだったみたいに言い放たれた。 好きで、好きでたまらない奴に。 俺のカラダを後ろの刺激がなければイけなくした奴に。 櫻川・・・ 櫻川 亮一・・・ 俺の家庭教師だった男。 俺が初めて身も心も溺れた男。 「俺さ・・・やっぱ真くんのこと、もう抱けねぇや」 そう言った時のあいつの瞳が・・・ あいつの瞳の色が・・・ キラリと光った輝きが・・・ そして同じ名をした奴が・・・ 今、俺の隣で好きだと騒いでる。 穏やかな日差しと 優しい桜色の花びらが舞う春だと言うのに 俺の心は春を一気に通り越し梅雨空が広がってるみたいだった。
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