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儀式とは失敗するもの
何かヤバメの悪霊とか化け物とかが出てくるホラーの場合、数十年前に絶対何かやらかしてる。ちゃんとマニュアル通りにやりなさい、イレギュラーをごり押しするから失敗するんだ。
というわけで、俺は本編の五十年前に来ている。本来は「五十年前、実はアクシデントがあって儀式が失敗している」という話が入る。神様が怒ったとか、生贄が呪ったとか、なんかよくわからん力が暴走したとか、いろいろありそうだけど今回は贄のパターンだ。
生贄は十七歳の女性のみ、乙女……要は性行為してないってことか、その女性をものっすげえボッコボコに痛めつけて苦しめてから殺す。その魂を儀式に使うらしい、なかなかヘヴィだ。
で、何で失敗したんだ、と思って見てみると処女じゃない、十七歳じゃない、というダブルスコア。おい、ちゃんと確認しろよ。
これどうしようかなあ。処女じゃないのはもう無理じゃん、どうしようもないじゃん。十七歳じゃないのはまあサバ読んでたって事なんだろうけど、他の生贄いなさそうなんだよな。
よし、OKわかった。条件変えてやろう。何歳でも良くて、乙女にこだわらない、何なら「美しい女性」って事にしておけばいいじゃん? そういえば昔俺と同じ子悪党だった女と組んで悪さして、指輪を落としたから振り向かせようとして「そこの綺麗なお嬢さん」って冗談で言ったらその場にいた女全員振り返ったからな。肝心の女は振り返らなかったけど。
それくらい「私ってデブでブスだから」って言ってる女程きれいって言葉に敏感だし、実は自分は綺麗だって思ってる。これでいこう。
とりあえず古文書は二重線で消して修正しておいた。すっげえ不自然だ、普通の奴なら気が付く。
「古文書の通り、美しい女であれば誰でもいい。桜子にしよう」
何で気付かねえんだよ、どうなってんだここの家の連中。いやあんな修正した俺も俺だけど。しょうがねえじゃん、古文書に修正テープ使えないんだから。
さて、桜子さんには悪いが生贄になってもらって。どうなったかなあと五十年後の本編に行ったらなんと。
全然変わってねえ、儀式失敗してやがる。何でだよ! 何も問題なかっただろ! あいつらどんな修正しやがった!? と直系の人間に儀式失敗の理由を聞いてみると。
「生贄は美しい女性、という条件でしたが。実は生贄となった桜子は、猿に着物を着せて逃げ出していたのです」
……。
「気づけよ!!!」
俺だけじゃなくその場に居合わせた全員が叫んでいた。せめて美しすぎたけど実は男だった、とかだろふざけてんのか! そりゃ神様大激怒だよ!!
「それ以来我が一族には猿の霊が襲い掛かって……」
神様じゃなくて猿に呪われてんじゃねえか!
「うるせえ知るかよ! バナナかサツマイモでもばら撒いとけ!」
当主の頭にチョップをぶち込み、封印の為のお札をビリビリにして俺は物語を後にした。
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