【3:キラキラ美夢の夢を叶えるスッキリキレイ】

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 マーシュというのは新進気鋭の手帳メーカーだ。高級志向の本革システム手帳から合皮の手帳、さらには子供向けのキャラクターものまで手広く扱っている。システム手帳の中身であるリフィルの品揃えも豊富だ。そのマーシュがインスタアカウントを持っているのだけれど、これがなかなか面白くて人気なのだ。登場するのは若手のマーシュ社員――青山さんという男の人――で、メーカー公式のアカウントだというのに自社手帳の紹介だけじゃなく、他メーカーのお勧めの文具も紹介してくれるという一風変わったものになっているのだ。有り難いことにカミヤマノートの製品が紹介されたこともある。その飾らない青山さんのコメントは軽快且つ文具愛に溢れていて、文具好きには堪らないものになっていた。だからこそフォロワーも軽く一万人はオーバーしている、まあ文具クラスタ内で知らない人はいない人気のアカウントなのだ。  高木さんはマスクの顎を撫でる。 「SNSも上手く使えば販促になるだろう?」 「そうですね。私もマーシュのインスタで紹介された付箋買ったりしましたよ」 「お前、できるか?」 「私ができ……ひぇっ? ちょ、ちょっと待って下さい。私にカミヤマの公式なんて無理ですよー」  あまりにさらりと言うもんだから、流されるまま頷くところだった。危ないあぶない。 「個人のものができれば公式のだってできるんじゃないのか。マーシュのやつだってチェックしてるんだろ?」 「それとこれとは別ですよ。私のインスタなんてフォロワー三百人弱ですよ。無理です。青山さんみたいにできませんって」 「青山?」 「マーシュの担当者さんです。社員っていうより文具オタクっていうか?」  語尾を上げると、高木さんはチッと舌打ちをした。 「まあそんなに構えることはない。自社製品を紹介すれば良いんだ。ネット広告みたいに」 「それはそうですけど。ただ紹介するだけじゃフォロワーも付きませんし、売り上げを伸ばしたいならお洒落な写真だって必要ですよ」  インスタはただ闇雲に写真を載せれば良いというものじゃない。たとえ現実感が薄くてもお洒落に見える写真に「いいね」が付く。実際私もいいねを付けるのはそういった写真や動画だ。 (美夢さんの動画もそんな感じだったしね)
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