【プロローグ】

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 五十嵐は続ける。 「えー、こちらが新しいエスプォワァァルでございます。山田様だけでなく、近隣の地主様にもご承諾頂きまして、えー、八階建てのマンションへと生まれ変わることになりました」  おお、と感嘆の声は続く。今度は門田がダブルクリップで綴じた書類をいそいそと配り始めた。 「ただいまお配りしております資料が、えー、新しいエスプォワァァルサイワイでございます」  受け取った資料に視線を落とす。いかにも説明会用といった感じのそれは、パワーポイントを印刷した資料のようだった。昨日高木さんに注意された自分のパワポを思い出し、この説明会には全く関係ないのに一人うんざりする。 「完成は来年の五月の予定でございます」 「着工は?」 「ああ、着工でございますね。善は急げと申しますように、来月、十月二十五日の大安に解体着工でございます」 「来月?!」  会場がザワザワと騒がしくなる。  頭の中でカレンダーを捲る。今日は九月十三日。あと一ヶ月ちょっとで新しいアパートを建て始めるということか。
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