【プロローグ】

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【プロローグ】

 幸町(さいわいちょう)公民館小会議室に集まったのは五名。エスポワールの部屋数は十室だから、住人の半数は参加していることになる。 「えー、私どもキタクコーポレーションは、こちらの山田様よりご相談を頂きまして、老朽化の進みました、えー、エスポワール幸町の、建て直しを行うこととなりました」  べったりとワックスで固めた七三分けのおっさんがホワイトボードの前に立ち、しゃがれた声で説明を始める。細いストライプのスーツの胸元には金色のラインが輝くネームプレート。このおっさんは五十嵐というらしい。 「ご存じの通り、幸町一帯は交通の便も良く、えー、再開発が進んでいる地域でございます。新しいマンションも、えー、次々に建てられている地域でございます」  入り口側の長テーブルには大家である山田さん親子が座っている。エスポワールの管理はおばさん――寧ろ私からすればおばあちゃん――がやっていたけれど、これを期に息子さんに代替わりするらしい。アパート(エスポワール)も老朽化してるけど、山田さんもいい歳に見えるし。 「そこで私どもキタクコーポレーションが、えー、ほら門田、ポスター」  五十嵐は一緒に来ていた若そうな男を顎で指した。その男は足元に置いてあった紙袋から大きなポスターを取り出し、ホワイトボードに広げて貼る。 「おおー」「わぁ」  集まった五名から感嘆の声が上がった。 『espoir Saiwai』  アルファベット表記になったエスポワール幸町は濃グレーに黒光りする背の高いマンションになっていた。
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