夕立のコルネット

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 大粒の雨が降り出した。始めは気まぐれのように、狐の嫁入りのように。しかし、それは本の二、三分でキャッツ・アンド・ドッグス――つまり典型的な土砂降りとなった。  塩見(しおみ)拓真(たくま)は文芸部に割り当てられた空き教室の窓際の席から、そんな夏の終わりの夕立を眺めていた。彼の小さな目はどこか虚ろで、大きな口はへの字に曲がっている。手はシャーペンを握ったまま、もう三十分もまともな文章を書いていなかった。小説とは何とままならないものか。  灰色の雲から絶え間なく落ちてくる雨粒。少し向こうの空は明るく、筋雲と綿雲が山吹色のグラデーションに染まっていて、見応えのあるコントラストだ。  そして、強い雨音の中でいずこからか聞こえてくるトランペットの旋律――。  ?  塩見は立ち上がり窓を開けた。ザアアという音が一際大きくなる。三階から見た第2グラウンドは無人で、降り注ぐ雨に打たれて何ヶ所かに浅い水溜まりを作っていた。  物悲しい風景の中に陽気な演奏者はいない。ただ、途切れ途切れに、半ば投げやりに、マーチ風の曲を奏でる金管の音がするだけ。  外の雨とシンクロするように、胸がざわめいた。  確かめなければ。そうすることが正解なのかは分からないが、ここにいてもどうせ執筆は進まない。  適当に言いつくろって文芸部を抜け出すと、塩見は軽やかに階段を駆け下りた。昇降口で靴を履き替え、誰かのビニール傘を今だけ拝借する。表に出た途端に水の匂いが一気に押し寄せた。  
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