夕立のコルネット

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 高校の校舎を囲むブロックで舗装された道は、余すところなく濡れていて、いつもよりも濃いグレーになっていた。雨が遠慮なく傘を叩き、風なのか雷なのか、雨音に混じってゴウゴウという音が辺りに響く。  小走りで第2グラウンドの方へと回り込もうとしていた塩見は、非常用の外階段を過ぎたところで立ち止まった。胸のざわめきが更に高まる。  校舎の白い壁の脇で、一人の男子生徒がこちらに背を向けて段差に座っていた。ブロックの道とグラウンドとをつなぐこの二つの段は、生徒からすれば腰かけるためにあるようなものだが、他には誰もいなかった。こんな日にこんな外れには普通は来ない。  この雨の中、男子生徒は傘を差していなかった。白いシャツは濡れて重くなり、塩見より高身長の恵まれた体に貼りついている。制服の黒ズボンもきっと大惨事だろう。  ヒタヒタという足音に気づいたのか、彼がゆっくり振り返った。  やっぱり、と塩見は思った。あれはトランペットではなく、彼――磯村(いそむら)駿基(しゅんき)のコルネットだったのだ。  二年二組のクラスメイトである磯村は、(わず)かに目を見開いたが、近くに立った塩見に冷たい視線を向けた。少し癖のある短髪は普段と違ってぺったりと潰れ、目蓋の辺りまで伸びている。一重の鋭い目と真っ直ぐ通った高い鼻のせいか、ずぶ濡れでも惨めに感じないどころか、そこにはある種の華やかさがあった。  磯村の右手では、全長40センチかそこらの小型の金管楽器が鈍い銀色に光っていた。  
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