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より重く、より冷たく、グラウンドの砂はどこまでも濡れていく。
「だったら……何で泣いてるんだ?」
大粒の雨がバラバラ、バラバラとビニール傘を無機質に叩いていた。雨に煙る灰色の景色がぼやけて、瞬いた拍子に、また一つ、目から熱い雫がこぼれ落ちた。
塩見はシャツの袖で目元を拭った。
「冗談だろ? ただの雨だって」
無愛想で、鈍感で。なのに、塩見はいつだってこの同級生に心の奥底を揺さぶられてしまう。だが、ここで不用意なことを言ってしまうほど馬鹿ではなかった。
だって、知っていたから。磯村が落ち込んでいればいるほど、彼は幼馴染みに対して強い思いを抱いているのだと。他の誰かのためのスペースなんて存在しないのだと――。
胸にくすぶっていた淡い期待に止めを刺すように、塩見はしっかりと地面を踏み締めて立ち上がった。
「そろそろ行くわ」
無言の視線がついてきた。目に水が入るのを嫌っているのか別の不快感からか、その目つきは険しかった。利き手の下のコルネットが主と共に黙って雨に打たれている。
「……磯村、風邪引くなよ?」
反応を見るのが怖くて、塩見はすぐに顔を背けた。知らない誰かのビニール傘を頼りながら、校舎の周りのブロックの道を少し早足で進む。どこもかしこも雨だった。ここではない遠くの町の空に、ほんのりオレンジ色を帯びた筋状の雲がまぶしく棚引いている。
角を曲がって数秒後、あのプツプツと水の音がする金管の調べが耳に届いた。気づいていないかのように振る舞っていた塩見だったが、やがて、そのマーチ風のメロディーに合わせて歩き始めた。
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