32人が本棚に入れています
本棚に追加
/119ページ
113
瞳は、お礼を言うために口を動かそうとした。
だが、どうしたわけか、「ありがとうございました」や「お世話になりました」の一言が出てこなかった。
助けてもらったばかりの時は、あんなにすんなりと言えたのに・・・。
瞳が、困り、焦っていると、女は、さらい深いため息をついた。そして、
「どんなしつけされてるのか知らないけど、本当に可愛くないわねー」
と、独り言をこぼしながら立ち去った。
瞳は、惨めな気持ちと罪悪感でいっぱいになった。
自分みたいな、恩知らずで出来の悪い人間が、何かを楽しみにしたり、幸福感を覚えたりするなど、身の程知らずで許されないことのように感じられた。
最初のコメントを投稿しよう!