夕立の人魚を忍者は愛した

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 だが、痛む傷と朦朧とした頭ではどこに進んでいるか最早わかっていない。どこに向かっているかわかっていない彼はそれでも縋るように足を動かし続け――気づけば、森を抜けていた。  知らぬ場所に戸惑うが、すぐにそれは消え去った。 「こんな所に泉が……」  端が見えないほど大きな泉が視界に映った彼は、丁度いい、と泉に向かって足を進めた。  忍びである彼の任務は、主に暗殺。身に纏う黒い布にこびりついたものは彼自身の傷ではなく殆どは標的の血。いつもなら無傷なのだが、標的が最期の力を振り絞って隠しナイフで忍者の腹を刺してきたのだ。そのまま息絶えた標的が倒れかかってきたことにより彼の布に血がべっとりと染み付いた。  その忌々しい血を流してしまおうと、彼は透き通った泉に足を踏み入れた。  どれだけ洗い流しても一度染みついたものは消えないとわかってはいても、脳裏にこびりついた「人の死の瞬間」を血ごと流すために彼は衣服のまま泉へ浸かる。  トプン  身体を沈めた瞬間、顔を覆っていた黒布が剥がれ男の髪が赤い筋を揺蕩わせながら水の中で広がる。  男の髪は、以前は黒かった。  だが、何度も血に染まったためか今では血のように赤い真紅の髪となった。幾人も殺してきたからか、彼の瞳も鮮血のように赤い。  雨では流れ落ちないほどの血が、彼の全てに染み付いているのだ。
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