夕立の人魚を忍者は愛した

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「くそ、やられた……」  悪態を吐きながら腹を抑え息も絶え絶えに雑草を踏み潰すように歩くのは黒ずくめの男。赤黒い液体が滲んだ布は身体に張り付くのか鬱陶しそうに布を引っ張る時もあるが、すぐにぺたりと張り付くようで黒布に隠れた顔でも不快に顔を歪めている様子が伺える。 「ちっ……」  男は空を仰ぎ、打ちつけてくる水滴を苛ついたように見上げた。  忍者である彼にとって普段は有り難い雨。全ての痕跡を消してくれる雨は天からの恵とも言える。だが、傷を負い帰路を急いでいる身としては鬱陶しいことこの上ない。日の光の入らぬ暗闇の森を歩んでるために時間間隔がない彼は今の時刻が全くわからず空を仰ぎながら歩み、ふと木の葉の隙間からオレンジ色を認めた。 「夕暮れ時か……」  見えた空の色から忍者は察する。妙に身体が痛む雨だと感じていた彼は今降る雨が普段のサァーとした洗い流す雨ではなく、急に降り始めて見せなくてもいい力強さを見せつけてくる夕立だと知った。道理で足が重くなる雨だ、と舌打ちしながら彼は無理矢理足を動かす。
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