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一瞬で心臓がバクバクと鳴り響いた。他の客だって店員だって普通にしてる、わかってはいたが、やはりあれが見えているのは僕だけらしかった。
「どした大山?」
ノックが僕の視線の先を見る。ああ、と小さく呟いた。
「あの子は星野美琴。俺らとタメだよ。俺より長くここに勤めてる」
「…………」
星野美琴と呼ばれた女の子は、そのままトレイを持って裏へと下がっていった。後ろ姿だけ見ればなんてことない普通の人。でも、あの正面は。
直感で分かった。あれは、相当やばいやつに狙われている。命だって危ういかもしれない。
額にうっすら汗をかいた。歩くたびに揺れる結ばれたロングヘアが心を揺らした。
その日のバイトが終了した瞬間、僕は人生で一番と言っていいくらいの勇気を出して星野さんに話しかけた。正直今まで女子とちゃんと話すことすらうまく出来ない内気男子だったのだ。
「ああ、あの、星野さん」
更衣室へ行こうとしていた彼女は振り返る。その顔を見てやっぱり飛び跳ねた。真っ黒で何も見えない。
「はい?」
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