青とピンクに宣戦布告

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 校門の右側にあるバス停は、バスが去った後も盛況だ。列を作る集団を横目に、黄色の傘を差した涼子は、反対側の舗道を歩く。  雪歩と友達になって六年間、今までに引き受けた頼みは、男子に苛められたから助けてとか、一輪車の練習に付き合ってとか、涼子が力になれることばかりだった。冗談を言い合う少女達の声が耳に入り、涼子を落ち着かない気分にさせた。  バニラみたいな甘さの声に気づいたのは、梅雨入りした六月だ。三か月前には呼び捨てにしていた男子生徒を、女子生徒の誰かが「くん」付けで呼び始めた時、皆が恋をしているのだと知った涼子は、本能的に怖気づいた。  小学生が中学生になるだけで、薬液に浸したリトマス試験紙みたいに、曇り空の青色や、夕暮れの空のピンク色に、皆の雰囲気が変わってしまう。一人、二人と色を変えて、ついには親友の雪歩まで。恋とか、愛とか、青春とか。そんな名前を持つものが、涼子の日常を変えてしまう。物思いに沈むうちに、目的地に到着した。  ブロック塀で囲われたバス停は、今日も涼子の独り占めだろう。  そう信じていたのに、先客がいた。  長椅子に座り、膝に載せた文庫本から顔を上げたのは――転校生、山科隼人だった。
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