化け傘の夕べ

2/3
前へ
/3ページ
次へ
 あっしには昔、人間の相方がいてねえ。もう二百年も前のことになるが。 そう、あっしは九十九神ってやつなのさ。その子はそりゃあもう、あっしを可愛がってくれたもんだよ。 雨の日はいつも一緒でさ。晴れの日は行ってきますと声をかけてもらってさ。ぼろぼろになってもずっとうちに置いてくれたんだ。  だが人間ってやつはいつか死ぬ。その子が年をとって亡くなって、その子の子供や孫が家を片付けたとき、あっしは捨てられちまったのさ。 といっても、そのときにはもう化け傘になりかけてたんだがね。それから外をうろうろしているってわけさ。  だが、化けてもやはり傘は傘。人間に使ってもらいたいという思いが消えないのさ。相方がよくしてくれていたから、なおさらね。 夕立の日に傘立てに入っていれば、傘を持っていなくてあわてた人間が、うっかり本物の傘だと思って、差してくれるかもしれない。 もしそんなことがあったら、ひとときでもそいつを雨から守ってやりたいのさ。それがあっしがここにいなきゃいけない理由だよ。  わかってくれたかい。あっしは人間に悪いことをする気はないんだ。ただの傘だと思われていれば、人間にいじめられることもないだろ。どうか見逃しておくれよ。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加