化け傘の夕べ

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化け傘の夕べ

 おやあんた、あっしに何か用かい。妖怪に何か用かい、なんてね。はっは、こんなこと言ったって仕方ない。だってお互いどっちも妖怪だからね。  ここで何してるのかって。見てわからないかい、傘立てに入ってるんだよ。化け傘が傘立てに入ってちゃ何か悪いかい。  妖怪が人間に近づくことは許可されていない、だって。それくらい知っててやってるさ。 まったく窮屈な世の中になったもんだよ。あんたも大変だね。こんなひどい夕立の中、見回りに精を出しちゃって、こんなしがない化け傘を職質したりしてさ。  それにしても不思議だねえ。今まで妖怪警察のやつらは、すっかりあっしを傘だと思い込んで、化け傘だと気づきもしなかったのに。 あんたきっと、期待の新人ってやつだねえ。あっしが本当に悪い妖怪だったなら、あんた表彰もんだよ。 だけれど残念、あっしは本当に人間にいたずらなんかしないのさ。  妖怪が人間に近づいちゃいけない決まりが作られたのは、妖怪が人間に危害を加えることを防ぐためだけじゃなく、人間が妖怪を迫害することを防ぐためでもある、だって。人間になんか近づかない方が、あっしのためだって言うんだね。 だがどんなに危なくたって、あっしはここにいなきゃいけないのさ。どうか、そう怖い顔しないで聞いておくれよ。
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