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アルフレッド、貰う。
ラウーラは慎ましやかながらも、どこか大人びた芯のある令嬢だった。
そしてアルフレッドを『勇者グラフの生まれ変わり』ではなく、ただのアルフレッドとして接してくれる数少ない存在だった。流石に人前で否定的な事を言う事はしなくなったが、いつでもラウーラはアルフレッドを、アルフレッドとして見てくれた。それが、それだけで、こんなにも心満たされるものなのかと、ラウーラと出会って初めてアルフレッドは自分の心を知った。
アルフレッドのラウーラへの溺愛ぶりはなかなかのものだった。
そうなると不安視されたのが、ラウーラや公爵家が、アルフレッドをいい様に利用するのではないか。と言うことだ。しかしラウーラは変わらず慎ましやかで、アルフレッドに何を強請るもなく黙々と己の勤めを果たした。肩透かしを食らった周りの大人達は目を疑い、困惑し、または胸を撫で下ろした。
「僕の可愛いラウーラ、ここにいたのか。今日の王妃教育は終わったはずだけど……これは、歴史の勉強かい?」
「殿下!はい。今日の授業の中で気になった点がありましたので調べておりました」
「ああ。この逸話か。それならこっちの本の方が詳しく書いてある」
ラウーラは本を読むことが好きらしく、元来読書好きであったアルフレッドにとってはそれも好ましかった。王城内の図書室で一冊の本を覗き込む二人の姿がよく見られる様になった。
「王妃教育を担当している教師が君の事をとても優秀だと褒めていたよ。だから、あまり根を詰めすぎないようにね。ラウーラはあまり体が強くないのだから」
そう言ってアルフレッドはラウーラのミルクティー色の髪に口づけを落とす。
「まあ殿下。わたくし最近はそこまで弱くはありませんわ」
「そう言って先週も寝込んだだろう」
ふっくと膨らんだラウーラの頬をアルフレッドがつつくと、ふしゅりと空気が抜け、思わず笑いあう二人の姿は、差し込む光も相まって一枚の絵のようであった。
そんな二人の仲睦まじさに、図書室の司書たちが口元や目元を押さえて耐える姿もまたよく見られた。
またラウーラは時折、手製(ラウーラが考案し公爵家のシェフが作ったもの)のランチを持参した。天気が良ければ東屋で一緒に食べることも珍しくない。アルフレッドの一押しはラウーラ特製、鶏のブラン酒蒸しシシリー風味だ。
「殿下、午後は剣術の鍛錬ですか?」
「ああ。今日はオリバー騎士団長が直接指導してくれることになっている」
「見学に行ってもよろしいでしょうか?」
「構わないが、退屈ではないか?」
「いえ!殿下の鍛錬でしたらいくらでも見ていられますわ。あ、それでですね。これを」
そう言ってある日。ラウーラがそっと取り出したのは腰につけるタイプのアミュレットだった。
「これは」
受け取ると、ふわりとラウーラの魔力が感じられるそれは、銀色で緑の石がはめ込まれたシンプルなデザインだ。
「いろいろと本を読んだり、メキジャ先生…………当家の専属魔術師ですが、相談しながら作りました。メキジャ先生からもお墨付きを頂きましたのでで効果はあるはずです。その、殿下がお健やかであるようにと」
「えっこれ、ラウーラが作ったの?」
ラウーラは、あまり体が強くないがその代わり魔力量が人よりも多い。その扱いを覚えるためにと、優秀な魔術師を雇っていると、いつだったか話していた。
「はい。ですのであまり繊細な細工ができず、この様な無骨な事に」
「そんな事はないよ。このデザインならいつ着けていても問題ないだろうし、とても良いと思う!ありがとうラウーラ。大切にするよ」
アルフレッドは嬉しそうにアミュレットを撫でると、言葉通り常に身につけ、大切に持ち歩いた。さらには何かにつけて人に自慢して見せて回ったせいで、アルフレッドとラウーラが周りの者たちから益々「おやおやうふふ」という目で見られることになったのは言うまでもない。
「あの殿下……恐らく城内にいるほとんどの方にお見せしたと思いますのでもうおやめください」
「そうか。では城下町に自慢しに行こうか?」
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