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あとは帰って涼しいLDKの部屋で映画の録画でも観ようと、幸せなことだけを考えながら家路を急いだ。
急げば急ぐほど、毛穴という毛穴から汗がよどみなく湧いてくる。
曲がり角が見えてきた。レアチーズケーキのような戸建が目印だ。プリンじゃなくてレアチーズケーキにすればよかったかもなと思いながら、我が家という日陰をもとめ、足が早まる。
ところで――。
このレアチーズケーキの家は庭も広くきれいで、住居として憧れている。
もし自分がおばあちゃんになったら、こんなきれいな庭のある戸建に住みたいと思う。
しかし、この家の住人は、どうしても好きにはなれなかった。
この土地に引っ越してきて三年。私が出勤する時間に玄関の掃除をはじめ、目があったためあいさつをすると、完全に無視される。
引っ越してきた日に土産を持ってあいさつに行った日も、「あらそう」と低くつぶやいて玄関を閉められた。お土産は受け取った。
そんな感じの悪い、初老の女だ。
そんな女性なのに、庭は最上級に美しく洋花で溢れ、いつ見ても手入れが行き届いていた。
ガーベラ、アマリリス、ダリア、ハイビスカス――。
私の知識ではそれくらいしか名前がわからないが、それ以外にも鉢で小さく咲いてい るものから、木とも呼べるほどの高さのあるものまで悠々と咲いている。
もしこの家の家主を知らない人がこの庭を見たら、真っ白な髪を整えたおしゃれなお婆さんか、白いワンピースの似合う若い女性が住んでいると想像するだろう。
それくらい、華やかで美しい庭だ。
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