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私の足は角を曲がり、レアチーズケーキの家の正面にさしかかっていた。
濃いピンクや鮮やかな花々は、うだる青空によく映えている。
絵葉書にもなりそうなその家の前を、十歩もいかないうちに通過しきる、その時だった。
アスファルトの上で、輝くものがあった。青空に映えているはずの花が一つ、落ちている。
落ちたばかりなのだろうか。
手をかざせば火傷をしそうなアスファルトの上で、その花は無傷でみずみずしく、拾い上げた私の手のひらに行儀よく正座した。
花弁の中心部から奥にかけて黄色い、全体的に白い花。ハイビスカスではないが、それに近そうな、南国を思わせる形をしている。
私は鼻を近づけてみた。甘くて苦みのある、野生の香り。
庭に咲いていたものを、摘んだわけではない。
私はその花を手のひらに乗せたまま、アパートの階段を上がり、ドアを開けた。
つけたままのクーラーが、薄暗い部屋を十分に冷やしている。心地よい。
私は買ってきたものを一度キッチンに放り、手に乗せた花とともにソファーに沈んだ。
閉め切ったカーテンの隙間から一筋、夏の日差しがあふれている。
それはクーラーの風に揺られ、フローリングの上で小波をつくっていた。
私はその上に、そっと花をかざしてみた。
拾った1円玉で買ったような、花。
ふとそう思い、足がばたついた。
海の音が、聞こえた気がした。
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